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実践!法律文書翻訳講座 第三回 読みやすい文章

江口佳実

実践!法律文書翻訳講座

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第三回 読みやすい文章
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法律文書には専門用語を使ったり、一定の決まりがあったりするので、かならずしも一般の文章、たとえば小説や雑誌の記事のような読みやすい文章にはならないのですが、だからといって、余りにも機械的に訳して何が何だか分からない、意味の取りにくい文章では困ります。
そこで、法律文書として読みやすい訳文にするにはどうしたらいいか、ちょっとしたコツをご紹介します。

ではまず、前回の宿題から。

【例文】 

Force Majeure.
Neither party shall be deemed in default or be held responsible for any cessation, interruption or delay in the performance of its obligations hereunder due to any event or circumstance beyond its reasonable control, including but not limited to, earthquake, flood, fire, storm, natural disaster, act of God, war, terrorist action, labor strike, lockout, and boycott, provided that the party relying upon this Agreement shall (i) have given the other party written notice thereof promptly and, in any event, within five (5) days of discovery thereof and (ii) shall take all reasonable steps reasonably necessary under the circumstances to mitigate the effects of the force majeure event upon which such notice is based.

【訳文例】

不可抗力
いずれの当事者も、自己の合理的な支配を超える事由または状況に起因する、本契約に基づく自己の義務の停止、中断、または遅延について、不履行であるとみなされることも、または責任があると判示されることもないものとする。かかる事由または状況には、次のものが含まれるが、これらに限定されないものとする。すなわち、地震、洪水、火災、暴風雨、自然災害、天変地異、戦争、テロ行為、労働者のストライキ、ロックアウト、およびボイコットである。ただし、本契約に依拠する当事者は、(i) かかる事由または状況が発生した時点で直ちに、かつ、いかなる場合も5日以内に、他方当事者にその旨を通知するものとし、かつ、(ii) かかる通知が根拠とする不可抗力事由の影響を緩和するために、その状況下で合理的に必要な、あらゆる妥当な措置を取るものとする。

前回までの講座でお話したように、英語で8行以上にもなるのに1つの文章である原文を、上の訳文では3つに区切っています。後半の箇条書きは2項目だけなので、上からつなげて訳していますが、もしもこの箇条書きがもっとたくさんだったり長かったりする場合は、「次の~に該当するあらゆる措置を取るものとする」としてもいいでしょう。

さて、読みやすい訳文づくりです。


コツ1 長い文章は区切って訳す。

はい、実は第2回でやった長い文章の処理の仕方、いくつかに区切って訳すというのは、読みやすい訳文にする方法の1つなのです。重要な方法といってもいいでしょう。
長い文章をダラダラと後ろから訳しあげていくから、何がなんだか分からない文章になってしまうのです。
もしも上の宿題文を、全部つなげて訳してしまったところを想像してみてください。どうにもこうにも収拾がつかない文章になること請け合いです。
今後はむしろ、「どこかで区切ってしまえる箇所はないか?」というのを、目を皿のようにして探しながら訳しましょう。

法律文書は、書いてある内容が相手に分かりやすく伝わることが重要なので、流麗な名文である必要はありません。箇条書きのように短く、要点がどこであるかが明確である方がいいので、ぶつぶつと区切った訳文の方が絶対に良いのです。
たとえば、

「Aという原因から、Bという状況が発生したため、Cということが考慮されて、Dという結論になった。」

よりも、

「Dという結論になった。理由は、Aという原因からBという状況が発生したためである。その際、Cということが考慮されている。」

と書かれてあったほうが、結論・理由・条件が何であるのかが分かりやすくて良いと思いませんか? 実際には、A、B、C、Dは、ひとつの単語や文字ではなく、句であったり節であったり、長ったらしいのですから。

ただ、あまりに短く区切りすぎてA、B、C、Dの互いの関係が分からなくなっては元も子も有りません。そこはバランス感覚を働かせて、臨機応変に。


コツ2 品詞にこだわらない。

これはどういう意味でしょうか。
例文を見てみましょう。


A waiver by any party of any particular provision hereof shall not be deemed to constitute a waiver in the future of the same or any other provisions hereof.

この文章の主語は、
A waiver by any party of any particular provision hereof
です。
主語ですから、名詞(名詞句)ですね。
しかしこれを、
「本契約のいずれか特定の規定の一方当事者による権利放棄は」
と訳すと、もちろん、誤訳ではありませんが、いかにも直訳で自然な文章ではありません。

これを、
「一方当事者が、本契約のいずれか特定の規定に関する権利を放棄しても」
と、条件節に読み替えて訳したら、どうでしょうか? 自然な文章になりませんか?

“品詞にこだわらない”とは、そういう意味です。
上の例を見ると、結果的に若干長くなりますが、堅苦しさはかなり消え、文章として読み手の頭に入りやすくなります。

後半も同じです。
shall not be deemed to constitute a waiver in the future of the same or any other provisions hereof.

「本契約の同一またはその他の条項の将来の権利放棄を構成するとみなされない」
よりも、
「将来において本契約の同一の条項またはその他の条項に関する権利を放棄したものとはみなされない」
のほうが、自然ですね。

一般に、長い名詞句をそのまま名詞句として訳してしまうと、堅苦しくなりがちです。節に読み替えて訳してみましょう。

では、宿題です。
次の条文を、上に説明したコツを使って訳してみましょう。

宿題

【宿題】

In the event of any default or breach of any provisions hereof by either of the parties hereto, if such default or breach is not cured within thirty(30) days after the non-defaulting party’s written notice thereof, the non-defaulting party shall have the right to terminate this Agreement by giving written notice of termination.

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記事を書いた人

江口佳実

神戸大学文学部卒業後、株式会社高島屋勤務。2年の米国勤務を経験。1994年渡英、現地出版社とライター契約、取材・記事執筆・翻訳に携わる。1997 年帰国、フリーランス翻訳者としての活動を始める。現在は翻訳者として活動する傍ら、出版翻訳オーディション選定業務、翻訳チェックも手がける。

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