Tradosとぼくと終わらない翻訳メモリ作成
みなさま、こんにちは。
今週も翻訳メモリの話題となりますが、どうかお付き合いくださいませ。
さて、本日は翻訳メモリの作成についてお話していきたいと思います。これまでお話ししてきた通り、翻訳メモリは翻訳を重ねれば重ねるほど訳文が自動的に蓄積され、次回翻訳時に過去の訳文を再利用できるツールです。しかし、自動的に蓄積されるのはあくまでTradosで翻訳をした場合のお話です。
例えば、Tradosなどの翻訳支援ツールを使用せず、Wordファイルに上書きで翻訳した場合はどうでしょうか。Tradosを使用していないので、当然ながら翻訳メモリには蓄積されません。そのため、過去の翻訳資料を多く持っている企業であっても、翻訳メモリに蓄積されていなければ、Tradosも活躍の場を失ってしまうことでしょう。
それでは、Tradosなどの翻訳支援ツール以外で作成されたファイルをメモリ化することはできないのでしょうか。ご安心ください。ブログのネタにしているぐらいなので、メモリ化する方法はしっかりと用意されています。
翻訳メモリを作るには主に以下の3種類の方やり方があります。
a) Tradosを使用して翻訳する
b) Excelにコピー&ペーストをする。
c) Tradosの整合(アラインメント)機能を使用する。
a) Tradosを使用して翻訳する
こちらに関してはこれまでお話ししてきた通り、Tradosを使用して翻訳を重ねていけば、自動的に翻訳メモリに原文と訳文のペアが蓄積されていきます。Tradosを使用すること以外、特別な作業はほとんどないため、一番簡単にメモリを作ることができます。ただし、前回の翻訳メモリ管理でもお話しした通り、レビュー前の訳文は玉石混交となる場合が多いため、メインメモリへ追加する際は訳文の品質を慎重に検討する必要があるでしょう。
b) Excelにコピーアンドペーストをする。
しかし、社内の全ての英・日資料がTradosを使って翻訳されているわけではありませんよね。翻訳会社や翻訳者であれば、日常的に翻訳支援ツールを使用しているかもしれませんが、一般企業ではTradosを導入している企業の方が珍しいことでしょう。さて、このようにTrados外で翻訳された資料をメモリ化するためにはいくつかの手順が必要です。
手順①:メモリの作成ルールを決定する。
Word上で訳された文章などは、しばしば原文と訳文の間で分構造や意味にいくつかの相違点が見られます。具体例を3つほど挙げてみましょう。
- 文節を超えた語順の入れ替え
- 複数文節をまたぐ訳文処理
- 意訳されすぎていて原文とはまったく異なる文章
上記のような文があった場合、原文と訳文が1対1のペアにならないため、例外をどのように回避するかルール決めしておくことが必要です。ルール決めをしていなければ、実際に上記のような訳文に直面した場合、各作業者の場当たり的な対応となることでしょう。結果として、ちぐはぐなメモリが完成し、実用的に運用することが難しくなってしまいます。
手順②:原文と訳文を1対1のペアにする。
手順①で決定したルールに基づいて、Excelなどで原文と訳文が対訳形式のペアとなるように文章を整備してあげます。実際にこの作業をやってみるとわかるのですが、毎日毎日何時間もひたすら原文と訳文をコピペする作業となり、精神的苦痛を強いられる作業です。
手順③:ペアとなった原文と訳文を最終チェックする。
ここまでくれば完成間近ですね。精神的苦痛を強いられる状態で作業しているので、どうしてもミスなどが出てしまう可能性がありますので、第三者の目で最終確認をします。
手順④:完成したエクセルファイルをTradosにインポートする。
対訳ペアのファイルさえ完成してしまえば、あとはTradosでいくつかの操作をするだけなので、ものの数分で翻訳メモリの形式に変換されます。
c) Tradosの整合(アラインメント)機能を使用する。
1文ずつExcelにコピーしていては何年かかっても終わりそうにない作業でも、Tradosの整合(アラインメント)機能を使用することで効率的に1対1ペアを作ることができます。同一資料の原文と訳文をTradosに読み込ませてあげれば、ものの数秒で1対1ペアのデータを作成することができます。
ただ、アラインメントにも弱点はあります。数秒で1対1ペアを作成してくれるのはいいのですが、資料を上から読み取って、機械的に組み合わせを作っていくだけとなるので、精度はかなり低いです。結局のところ、整合(アラインメント)機能は補助ツールとなるため、人間の手による修正や意志判断が必要となります。
今回ご紹介した翻訳メモリの作成方法は不特定多数の使用者を想定したかなり丁寧に作りこんだ場合の方法です。個人で使用されたり、参考程度に使用する一時的なメモリであれば、整合(アラインメント)機能で必要最低限の整備を行って使用しても問題ないでしょう。状況に応じた適切なメモリ作成が今後の翻訳作業を効率化していくための肝となることと思います。