TRANSLATION

振り回される日常

すみす

Tradosとぼくと東京タワー

翻訳支援ツール「Trados」

翻訳業界とかかわりのない方にとって、「Trados」という言葉を見たことも聞いたこともないかと思います。翻訳業界とかかわりのある人であっても、その存在を知らない人も大勢いることでしょう。世の中には、会計用ソフトや医療用ソフトなど専門業務に特化したソフトウェアが多く存在しています。Tradosもまた、翻訳業に特化したソフトウェアの1種です。

このTradosというのは、翻訳会社の欲望や翻訳者の希望を叶えるツールではありますが、同時に度重なるエラーにより翻訳管理者や翻訳者を絶望の底に突き落とすツールといった一面も持っています。今回の連載では天使と悪魔、両方の顔を持つ「Trados」に振り回されるコーディネーターの日常をご紹介したいと思います。

Tradosとは?

そもそもTradosとは何か。我々はなぜTradosを使うのか。Tradosを導入するメリットは何か。今回は初回ということもあり、Tradosおよびその基本的な機能を簡単に紹介したいと思います。堅苦しい内容が続きますが、あまり気張らずに読んでいただければと思います。

「Trados」とはSDL社が販売している翻訳支援ツールの名称です。正式名称は「SDL Trados Studio」ですが、一般的に「Trados」と呼ばれることが多いですね。ちなみに「Trados」の名前の由来は「TRAnslation & DOcumentation Software」の略称らしいですよ。

翻訳支援ツールにはいくつかの種類がありますが、翻訳業界で長い歴史を持ち、圧倒的シェアを誇っているのが「Trados」です。実際に弊社がクライアントから翻訳支援ツール指定の依頼を受けた場合、その多くはTrados指定の案件となります。

では、我々はなぜTradosを始めとする翻訳支援ツールを使うのでしょうか。Tradosを導入するメリットは大きく分けて二つあります。一つ目は「翻訳作業の効率化」、二つ目は「翻訳品質の維持・向上」です。それぞれのメリットについてTradosの主要概念である「翻訳メモリ」と併せて考えてみたいと思います。

翻訳メモリ

Tradosを理解するうえで、「翻訳メモリ(Translation Memory)」はとても大切な機能です。翻訳メモリを一言で説明するならば、「原文と訳文をペアにして保存するデータベース」です。これだけでは何のことか分からないと思いますので、一つ具体例を挙げてみます。

あなたは翻訳会社から依頼を受け、次の文章を4日前に翻訳しました。
原文「Requirements and guidance, refer to A1.1」
訳文「要求事項及び指針についてはA1.1を参照する」

4日前に訳出した時点で、原文と訳文は対訳のペアとして翻訳メモリに蓄積されます。そして、4日経った今、別のページに全く同じ文章「Requirements and guidance, refer to A1.1」が出てきました。ツールを使わない翻訳であれば、「前に同じような文章を訳したな」と思いながら、一から新たに訳出することでしょう。一方でTradosを使用した場合、同一の文章が既に翻訳メモリに蓄積されているため、前回と同じ訳文を自動的に当てはめてくれます。

また、別のファイルでは次のような文章がありました。

原文「Requirements and guidance, refer to B1.1」
参照先(B1.1)が違うので、翻訳メモリに蓄積されている文章と全く同じ文章とは言えませんね。しかし、ここがTradosの腕の見せ所です。翻訳メモリに蓄積されている原文と類似の文章が本文中に出てきた場合、Tradosは一致率を90%と評価したうえで、「Requirements and guidance, refer to A.1.1 B1.1」と過去の原文からの変更箇所を示してくれます。

翻訳作業をする際には、過去訳を参照しながら変更箇所のみを修正するだけとなるので、効率的に作業を行うことができます。

このように翻訳メモリを使用することで過去に翻訳したことのある文章を再利用することができます。過去の翻訳と完全に一致していない文章であっても、類似箇所があれば、Tradosが自動的に訳文の一致率を評価してくれます。例えば、過去の原文と全く同じ文章の場合は「100%」、過去の原文と単語が一つだけ違う場合は「90%」といった具合です。設定によっては「50%」や「60%」の一致率の文章を再利用することもできますが、食い違っている箇所が多く、参考にさえならない場合も多い印象です。

今回は翻訳メモリの説明を中心に一つ目のメリット「作業の効率化」について話させていただきました。次回は二つ目のメリット「翻訳品質の維持・向上」について話せればと思います。

※本ブログはコーディネーターの個人的な解釈に基づいています。

Tradosに関する公式情報は以下販売元のSDL社HPをご覧ください。
SDL Trados Studio 製品ページhttps://www.sdltrados.com/jp/products/trados-studio/
SDL Trados Studio紹介ブログhttps://www.sdltrados.com/jp/blog/category/sdl-trados-studio.html

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記事を書いた人

すみす

埼玉大学大学院人文社会科学研究科を卒業後、翻訳コーディネーターとしてテンナイン・コミュニケーションに入社。大学院ではドイツ文学を専攻し、文献学の観点からカフカを研究。
現在は翻訳コーディネーターとしてTradosに悪戦苦闘中。
趣味はヨーロッパ作品を中心に読書と映画鑑賞。ときどきジャズと短歌。

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