TRANSLATION

婉曲表現のご紹介(10)「警察」

宮崎 伸治

出版翻訳家による和訳レッスン

今回は和訳レッスンを一休みし、「警察」関連の婉曲表現をご紹介します。ぜひ肩の力を抜いてお読みください。

日本語で「警察」関連の婉曲表現にはどのようなものがあるでしょうか。ちょっと思い出そうとしてみたのですが、なかなか思い浮かびませんでした。やっと思い浮かんだのが「サツ」と「デカ」。「サツ」は「警察」の「察」のことだと容易に推測できますが、「デカ」はどうでしょうか。国語辞典で調べてみると「デカ」とは「刑事」のことで、その説明として「明治時代、刑事巡査の着た「かくそで(角袖)」の逆さ言葉の略」とありました。さすがに「逆さ言葉」の「略」は推測しにくいですね。

ネットで「警察」の類義語を調べてみると上記以外にも「お回り」「その筋」「岡っ引き」「ポリス」などが出ていました。「岡っ引き」とは古い言葉ですが、「犯罪の捜査や犯人の逮捕に当たった者」のことを指します。

さて、英語には「警察」関連の婉曲表現がたくさんあります。中には婉曲表現というより蔑称といったほうが近いものもありますが、ここではそれらを除いてご紹介しましょう。というのも、間違って口から出てしまうリスクを考えたら、あえてそのリスクを負うこともないですからね。

policeを婉曲的に表現するのは、一般市民にとってはpoliceにお世話になること自体が恐ろしいことのように思えるからといわれています。それは日本でも英語圏でも同じなのですね。さて、では英語のpolice関連の婉曲表現を見てみましょう。

○police officer
19世紀初期にpolicemanの代わりに婉曲表現として使われ始めたのがpolice officerです。police officeが「警察署」のことですから、わかりやすいですね。呼びかけの言葉としてofficerとだけ言う場合があります。

○law-enforcement officer, law-enforcement official, law-enforcement agent
これらは「法執行官」のことを指していう言葉ですが、「警官」の婉曲表現としても使われています。警官の主な役割は「法と秩序の保持」ですから理にかなった表現といえるでしょう。

「警官」が身につけている物の色を使った婉曲表現もあります。例を見てみましょう。

○boys in blue, men in blue
アメリカでは警官の制服が青色であることから、19世紀からこのように言われるようになりました。略してbluesということもあります。

○redcap, snowdrop
redcapもsnowdropも“かぶり物”の色を使った「憲兵」を意味する婉曲表現です。前者はイギリスで、後者はアメリカで使われています。

○limb of the law
limbとは「手足(の1本)」とか「腕」という意味の言葉ですから、直訳すれば、「法の手足」となります。18世紀から「警官」のことをこう表現したりするようになりました。ただし現在では皮肉っぽく言うときにこう言うようです。

○Smokey Bear、smokey bear
Smokeyとは、米国で森林火災防止の掲示に描かれた森林警備隊員の服を着たクマのぬいぐるみの絵のことですが、「州の交通警官」を意味する婉曲表現としても使われます。略してbearと言うこともあります。

○cop
「警官」のことをこういうことがあります。play cops and robbersで「泥棒ごっこをする」という意味になります。copを「逮捕する」という動詞で使うこともあります。例えば、cop him stealing some moneyといえば、「彼が金を盗んでいるところをつかまえる」という意味になります。

○G-man, G-Man
日本でも昔、『Gメン75』というテレビドラマがありました。75から推測できるとおり1975年から放映されていました。英語としてもやや古い言い方になりますが、FBI捜査官のことをG-manといいます。このG-manの複数形がG-men(Gメン)ということになります。なお、G-manのGはgovernmentの頭文字を取ったものです。

さて、次に「arrest逮捕」とか「charge(罪などの)かどで責める」の婉曲表現を見てみましょう。

○haul in, pull in, pinch
arrest(逮捕)という言葉がダイレクトすぎるので、もともとは「引っ張る」とか「つまむ」という意味のあるこれらの言葉をarrestの婉曲表現として使うことがあります。

○collar
collarは「えり」という意味の言葉ですが、犯人のえりをつかんで逮捕するというイメージからcollarを「逮捕」の婉曲表現として使うことがあります。make a collar、feel someone’s collarで「逮捕する」という意味の熟語になります。

次に「手錠」とか「警棒」など警察が使うものの婉曲表現を見ていきましょう。

○bracelets、cufflinks
「手錠」は正式にはhandcuffと言いますが、handcuffがダイレクトすぎるので、その婉曲表現としてbraceletsとかcufflinksが使われます。

○nightstick
「警棒」は正式にはtruncheonと言いますが、truncheonがダイレクトすぎるので、その婉曲表現としてnightstickが使われます。

以上、「警察」関連の婉曲表現をご紹介してきましたが、こうした婉曲表現にお世話にならなくても済むよう「法と秩序」を守って生きていきたいものですね。

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記事を書いた人

宮崎 伸治

大学職員、英会話講師、産業翻訳家を経て、文筆家・出版翻訳家に。産業翻訳家としてはマニュアル、レポート、契約書、パンフレット、新聞記事、ビジネスレター、プレゼン資料等の和訳・英訳に携わる。
出版翻訳家としてはビジネス書、自己啓発書、伝記、心理学書、詩集等の和訳に携わる。
著訳書は60冊にのぼる。著書としての代表作に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)が、訳書としての代表作に『7つの習慣 最優先事項』(キングベアー出版)がある。
青山学院大学国際政治経済学部卒業、英シェフィールド大学大学院言語学研究科修士課程修了、金沢工業大学大学院工学研究科修士課程修了、慶應義塾大学文学部卒業、英ロンドン大学哲学部卒業および神学部サーティフィケート課程修了、日本大学法学部および商学部卒業。

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