「~以上」と「~超」、「~以下」と「~未満」の違いに気を付ける
今回は、数字につけられたmore than やover、~or lessやless than, underなど、簡単そうでいて、注意して訳さなければならない英語表現の訳し方を見ていきましょう。
さっそく例を見てみましょう。
Over 10 years old available.
availableは「利用できる」という意味ですが、ここでは「対象」と訳すこととして、「over 10 years old」の訳し方に注目してみましょう。
「over 10 years old」はついつい「10歳以上」と訳しがちですが、over は引き合いに出す数字を超えている場合に使いますので、「10歳」は含まれず、正しくは「10歳を超えている人」を指しています。それを踏まえて訳してみましょう。
直訳:10歳を超えている人対象
ただし、日本語では「10歳を超えている人」とはあまり言いませんね。こういう場合は、むしろ「11歳以上対象」としたほうがすっきりします。修正してみましょう。
宮崎訳:11歳以上対象
「10歳以上」と「11歳以上」では明らかに意味が異なりますので、「10歳以上」と訳したのでは誤訳になります。気をつけましょう。
次はmore than の例を見てみましょう。
More than one man was fired.
試訳:ひとり以上の人がクビになった。
この訳ではまずい点が2つあります。
1点目は、日本語として少し不自然であることです。日本語では「ひとつ以上」とか「ひとり以上」という言い方はあまりしませんね。こう言ったとしても論理的にはなんら問題はないのですが、あまりこういう言い方はせず、「数人の~」とか「数個の~」とか「複数の~」といった言い方をするのが自然です。
2点目は、more than one といのは「one を超えている」ということですから、over one と同じです。ですから、正確に日本語に訳すとすれば、「ふたつ以上」とか「ふたり以上」としなければなりません。
以上の2点を踏まえて、修正してみましょう。
修正訳:ふたり以上の人がクビになった。
さて、「ふたり以上の」としたことによって、日本語の表現としても問題はなくなりました。ただひとつひっかかるのは、じっさいの会話で「ふたり以上の」という表現を使うか否かです。もっと頻繁に使う表現はないでしょうか。再度修正してみましょう。
修正訳2:何人かの人がクビになった。
さて、これで「こなれた訳」になったと思う人も多いでしょうが、「何人かの人」ということは厳密には「ひとり」も入ってしまいます。原文ではmore than one だと言っているのですから、「ひとり」だけと解釈されてしまうと正確に訳されたことにはなりません。とすれば、より正確に訳すとすれば、どうすればいいでしょうか。
宮崎訳:複数の人がクビになった。
では、ここで「~以上」と「~超」を表す英語表現を整理しておきましょう。
~以上 = ~ or more, greater than or equal to ~, not less than
~超 = more than, over, greater than, above
では、「~以下」と「~未満」を表す場合、英語でどういうかでしょうか。
~以下 = ~ or less, less than or equal to~, not greater than~, no more than, or under, or below
~未満 = less than, under
例を見てみましょう。次の英文はどう訳せばいいでしょうか。
We are all under ten.
宮崎訳:私たちはみな、10歳未満です。
「私たちはみな、10歳以下です」を英語でいうときは次のようになります。
We are all ten or less.
小さな違いのようですが、その違いが大きな誤解につながることもあります。特に正確さが求められている場合は、正確に訳しましょう。
ただし、文芸翻訳の場合などで、例えば人口や年齢などの大きな数を指すときは、more やlessを「~以上」「~以下」と訳しても許容できる場合は、日本語として読みやすくしたほうがいい場合があります。
例えば、more than five years は、「5年ぴったり」は含まれず、厳密に言えば「5年と1日以上」を意味しますが、おおまかな時間の経過を表しているに過ぎない場合は、「5年を超える」とか「5年と1日以上」と訳すよりは「5年以上」と訳したほうが日本語として読みやすくなります。
急いで訳しているときなど、「~以上」と「~超」、「~以下」と「~未満」の違いにまで神経が回らないことがありますが、場合によっては誤訳になりかねませんので注意しましょう。ポイントとしては、引き合いに出す数字を含むか含まないかに留意しながら訳すことですが、正確さが要求されないと判断される場合は、日本語として読みやすく訳すといいでしょう。
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