人を表す「-er」のうまい訳し方
今回のレッスンでは、人を表す「―er」の訳し方を見ていきましょう。
「私は泳ぐのが得意だ」を英語でいうときどういうでしょうか。ほとんどの日本人は “I am good at swimming.” と答えることでしょう。
もちろんそれで正解ですし、自然な表現でもあります。しかし、英語圏では、それと同じくらい ”I am a good swimmer.”といっても自然に聞こえます。
今度は逆にそれを日本語に直訳してみましょう。
直訳:私は良い泳ぎ手だ。
しかし、日本語では「泳ぎ手」という言い方はあまりしません。辞書にはswimmerの訳として「泳ぐ人」「泳者」と載っていますが、それでもしっくりきません。「泳者(エイシャ)」などと言ったら、「エイシャって何ですか?」と聞き返されるのがオチでしょう。それくらい日本語としてはあまり使わない言葉です。
こういう場合はswimmerという名詞にこだわらず、伝えたい意味をくみ取って、思い切って「私は泳ぐのが得意だ」と表現を変換すればいいのです。
宮崎訳:私は泳ぐのが得意だ。
では、同じ要領で次の例を考えてみてください。どう訳しますか。
Is she a good golfer?
宮崎訳:彼女はゴルフがうまいですか?
ではもっと複雑な例を見てみましょう。
次の例は「よきパートナーをもてば、問題を解決するときに援助してもらえるかもしれない。誰にも弱点や洞察力の欠ける点がある。よきパートナーをもてば、こうした欠点を補うことができる」という主旨の文につづくものです。
Together, well-matched partners make a more perfect problem solver.
ここで問題なのは、最後のproblem solverをどう訳すかですが、まずは直訳してみましょう。
直訳:調和のよく取れたパートナーは、いっしょになると、より完璧な問題解決者をつくる。
これでは意味としては正しいのかもしれませんが、スッと頭に入ってきませんね。読みやすく直してみましょう。
ここで使われているmake はbecomeと同じ意味です。たとえば、She’ll make a good wife. は She’ll become a good wife.と同じで、両方とも「彼女はよい奥さんになるだろう」です。これがわかれば最後を読みやすくできます。
修正訳:調和のよく取れたパートナーは、いっしょになると、より完璧な問題解決者になるだろう。
ここで、先に見てきたテクニックを使って訳文を修正してみましょう。make a more perfect problem solver は、solve problems more perfectly を訳せば、日本語として読みやすくなります。
さらに、「調和のよく取れた」という箇所も、より読みやすくするために「相性の合う」と言い換えてみましょう。
宮崎訳:相性の合うパートナー同士が手を組めば、問題をより完璧に解決できる。
英語では「―er」の形で人を表す場合が多いのですが、日本語に訳すときは、著者のいいたいことを汲み取って、それをそのまま日本語にしたほうが日本語として読みやすくなることが多いのです。また例では、「―er」の形で人を表すものを見てきましたが、typistやcookなど「―er」以外の形で人を表すものも同じように訳します。
例えば、Is she a good typist? の場合、「彼女はよいタイピストですか?」と訳すと日本語として不自然になりますので、「彼女はタイプが得意ですか?」と訳すといいでしょう。
次回は和訳レッスンを一休みして、興味深い婉曲表現をご紹介します。
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