TRANSLATION

婉曲表現のご紹介(4)

宮崎 伸治

出版翻訳家による和訳レッスン

今回は和訳レッスンを一休みし、「年齢」に関する婉曲表現をご紹介します。ぜひ肩の力を抜いて読んでください。

イギリスに留学しているとき、人に年齢を訊くと嫌がられることが多々ありました。女性だけでなく、男性でも嫌がる人がいたのには驚きました。

考えてみれば、日本では目上の人には敬語を使わなければならないため、話している相手が自分より年上か否かを知りたがるのはむしろ自然なことといえるでしょう。

しかし英語では目上の人に対しても you を使って話せますし、そもそも丁寧な表現はあっても日本語の敬語に相当するようなものはないため、話している相手の年齢など知らなくても会話をする上で何の支障もありません。

こういう言語上の特性もあってか、英語話者は話している相手の年齢を知る必要もありませんし、だからからか知りたがることもあまりありません。

こうした文化でもあるせいか、英語には「年齢」に関する婉曲表現も多くあります。

今回はそれをご紹介していきましょう。

○ age
age には「年齢」「年」という意味もありますが、同時に「高齢」とか「老齢」「老人たち」という意味もあります。
youth and age といえば「老いも若きも」という意味になります。

○ senior citizen, senior
1930年頃から old person の婉曲表現として senior citizen (または略してsenior)という言葉が登場し、その後、普及しました。
senior には「最高位の」という意味もありますので、old person とダイレクトにいうより響きがよくなります。

○ elderly
old とダイレクトにいうのを避けるための婉曲表現の1つに elderlyがあります。最初に使われたのは1611年といわれているくらい古くから使われている言葉です。当初は somewhat old (やや年配の)という意味で使われていましたが、今では「年配の」という意味の婉曲表現として定着しています。
an elderly lady(かなり年配の婦人)といえば、an old lady より響きがよくなります。

○ mature
mature は「十分に成長した」「発達した」という意味のある言葉ですが、婉曲表現として「中年の(middle-aged)」という意味でも使われることがあります。もちろんポジティブなニュアンスです。
the mature age といえば「熟年」とか「分別盛りの年齢」という意味になります。

○ grande dame
grande も dame もフランス語であり、意味は「年上の」と「婦人」です。この grande dama は英語では respected old female(尊敬された年配の女性)という意味で使われます。

○ seasoned
「味付けした」という意味の言葉ですが、人にも使われ、「ベテランの」「経験豊かな」という意味になります。
He is a seasoned negotiator.(彼は経験豊かな交渉者です)

○ chronologically gifted, chronologically advanced
chronologically とは「年代的に」という意味ですが、これに gifted や advanced をつけて「年功のある」とか「年をとった」という意味で使われることがあります。

○ third age
直訳すれば「第三年代」となりますが、old age(高齢年代)を指します。旅行・職業補習教育の機会という観点から見た老齢に使われ、年齢でいえば55歳くらいから70歳くらいを指します。third という言葉が使われているのは、youth がfirst、middle age が second と考えられるためです。

○ a person of advanced years, a person advanced in years
an old person の婉曲表現として使われます。old を使うより穏やかな表現になります。

○ Darby and Joan
「仲のよい老夫婦」という意味で使われます。a Darby and Joan Club といえば「老人クラブ」のことです。

今回は「年齢」に関する婉曲表現を見てきました。

次回はまた和訳レッスンに戻ります。

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記事を書いた人

宮崎 伸治

大学職員、英会話講師、産業翻訳家を経て、文筆家・出版翻訳家に。産業翻訳家としてはマニュアル、レポート、契約書、パンフレット、新聞記事、ビジネスレター、プレゼン資料等の和訳・英訳に携わる。
出版翻訳家としてはビジネス書、自己啓発書、伝記、心理学書、詩集等の和訳に携わる。
著訳書は60冊にのぼる。著書としての代表作に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)が、訳書としての代表作に『7つの習慣 最優先事項』(キングベアー出版)がある。
青山学院大学国際政治経済学部卒業、英シェフィールド大学大学院言語学研究科修士課程修了、金沢工業大学大学院工学研究科修士課程修了、慶應義塾大学文学部卒業、英ロンドン大学哲学部卒業および神学部サーティフィケート課程修了、日本大学法学部および商学部卒業。

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