第319回 内向型出版翻訳家の操縦法
「内向型」という言葉を数年前から本のタイトルでよく見かけるようになりました。「内向型人間」とか「静かな人」などとも表現されています。先日、メンタルヘルス関連の仕事で『世界一やさしい内向型の教科書』を読んで驚きました。本書には「あなたの内向型度がわかる診断テスト」があるのですが、24項目のうち22項目も該当するではありませんか! 「どちらかといえば内向型かな」くらいに思っていたら、こんなにも典型的な内向型だったとは……。
内向型の特徴とされる項目を見てみると、まさに翻訳家にうってつけのものが多いのです。
「誰にも会わない日が数日続いても苦にならない」
「ひとりで黙々と作業を進めるのが好き」
「本やWEBコラムなどを読んで知らないことを学ぶのが好き」
「決められたことをコツコツ続けられるタイプだ」
何日も家にこもって、大量の調べものをしながら翻訳をするのには、こういう性質は役立ってくれそうです。その一方で、持ち込みをする場合にマイナスに作用しそうな性質も……。
「飲み会や知らない人との交流会が苦手」
「初めての場所や新しい環境はいつも緊張する」
「質問に即答するのは苦手で、できればゆっくり考えてから話したい」
こういう性質のために、持ち込みのハードルが上がってしまうかもしれません。肝心なのは、「だから向いていない」と思ってしまうのではなく、自分の性質を踏まえたうえで用意をすること。そうすれば、かなり心の負担を軽くできるはずです。
私が「ザ・内向型」だという診断結果を伝えると、驚く方もいました。講演をしたり、会を主催したりしていることから、外向型の印象があったようです。だけどそれだけではなく、自分なりに苦手な状況を分析して対応策をとってきたことも大きいのではと思っています。たとえば、診断テストの項目にはこんなものもあります。
「どんなに楽しくても、人と会ったあとはしばらくひとりになりたくなる」「外出や旅行のあとはすごく疲れやすい」
まさにその通りで、大人数でのイベントなどに参加するとぐったりしてしまいます。大体2時間が限度だとわかっているので、イベントが終わったらすぐに帰ります。本当は終了後の交流会や懇親会がいちばん仕事にはつながるものなので、持ち込みをする方には参加することをおすすめしますが、私は帰ります(笑)。そうしないと、疲れすぎて翌日使いものにならないのです。
たとえば「質問に即答するのは苦手で、できればゆっくり考えてから話したい」という項目が該当する方だとします。それなら、編集者さんとお会いする際には、どんな質問をされる可能性があるかをあらかじめ想像して、それに対する答えも考えておくことです。考えておくだけでは対応できる自信がないのであれば、答えを文章化して、読んでスムーズに話せるところまで用意しておくのもいいでしょう。
とはいえ、どれだけ用意をしていても、想定外の質問はあるものです。そうすると真っ白になって、それまでいい調子で答えていたのが、いきなりしどろもどろになってしまうかもしれません。その場合には……
「実は、その場で答えるのがとても苦手で、今日のために事前にすごく時間をかけて準備をしてきたんです。けれども今のご質問まで想像が及ばず、準備がないため、十分なお答えができません。追ってメールであらためてお返事させていただいてもよろしいでしょうか?」
という具合に、自分がきちんと答えられる方法を提案しましょう。しどろもどろになってしまった理由も、正直にお伝えしたほうが信頼につながるでしょう。
内向型の診断項目はあくまでも指標のひとつにすぎませんし、人間を単純に「内向型」「外向型」のふたつに分けられるものでもないでしょう。また、内向型といっても色々あるようです。本書でも、内向型を理由に自分の可能性を閉ざしてしまわないようにという趣旨のことが書かれていました。自分の性質を把握することで「だから無理」と言い訳にしてしまうのではなく、性質をうまく活かしながら、自分で自分を操縦していきましょう。
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