TRANSLATION

第318回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート72

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

出版翻訳家デビューサポート企画レポートをお届けします。前回に引き続き、アーティストの評伝を持ち込んでいるIさんの進捗状況をお伝えしていきます。

K社での部内回覧の結果を待っていましたが、残念ながら、Iさんの企画を手がけたいという編集者さんはいませんでした。そこで、次の持ち込み先にあたることにしました。

IさんがJ社から企画を引き上げた際、Iさんの受けたダメージも気がかりでしたが、もうひとつ気がかりだったのは、J社につないでくれた批評家の方との関係への影響です。この件で気まずくなるようなことがあっては……と思っていましたが、心配することはありませんでした。というのも、その方が今度はL社につないでくださり、編集者さんにお会いできることになったのです。

L社は、本書の分野に強い出版社です。そういう意味ではふさわしい候補と言えます。ただ、本の売り方などに独自のスタンスがあり、こだわりが強いように見受けられました。

「もしかして、コミュニケーションがとりにくいのでは……」と不安になったIさんでしたが、実際に編集者さんにお会いしてみると、とても素敵な方で安心したそうです。

お会いするにあたって、Iさんは著者関連の最新ニュースもまとめました。大規模な個展の開催など、著者に関する動きが欧米ではかなり盛り上がっているので、追い風になってくれるかもしれません。

そんな情報とあわせて企画書をお見せしたところ、関心を持ってくださいました。なかなか難しいかもしれないけれど、なるべく前向きに検討してくださるとのこと。できれば出版したいけれども、日本での知名度がないので売り方がわからないため、そのあたりを検討したいとのお話でした。

お返事を待つ間、Iさんはもうひとつの企画も動かしていきます。第2期生として、シリアスなテーマを扱った大人向けの絵本も手がけているIさん。企画書と試訳に対する私からのフィードバックを受けて、修正を加えたとのご連絡をいただきました。

試訳には、絵本から抜粋された絵がサンプルとして掲載されているのですが、以前に拝見した際には重い雰囲気に感じられました。絵柄の軽やかさとその癒し効果についてアピールしていた企画書とギャップがあったので、抜粋する絵を選び直したほうがいいとお伝えしていたのです。

修正された試訳を拝見すると、以前よりもずっと華やかさが感じられ、不要な重さを払拭できていました。途中にカラーページが増えたことや、原書の見返しにある美しい画像をラストに盛り込んだことで、かなり印象が変わったのだと思います。これならIさんのアピールしたいポイントが伝わるのではないでしょうか。

Iさんは、修正済みの企画書と試訳をa社の編集者さんにお送りしました。出版関係の交流会で知り合った編集者さんです。Iさんは積極的にいろいろな場に顔を出しているので、知り合う機会があったのでした。今回の企画に関連するテーマの書籍の文庫化を手がけていることから、関心を持っていただけるかもしれないと考えたそうです。

いずれの企画も今はお返事待ちのIさん。また今後の進捗をレポートしていきますね。

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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