TRANSLATION

第313回 出版翻訳家と本の整理

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

私は今、長年頭を抱えてきた大問題に取り組んでいるところです。その大問題とは……そう、本の整理です!

昔、通訳学校に通っていた頃、先生が「毎年新しい本棚がいっぱいになるくらい本を読まないと、この仕事は務まらない」というお話をされていました。それを聞いた時は、「そんなに読むなんて、信じられない! 狂ってる!」と思ったのですが、今や私がその「狂ってる!」人になっています。

出版翻訳家を目指す方には、もともと本好きな方が多いでしょう。そのうえに仕事や勉強のためにさらに読むことになるので、どうしても増えていくんですよね。

図書館も活用しているのですが、読めば読むほど自分好みの本を見つける確率は高まるわけで、結局は「この本はやっぱり手元に置いておきたい!」と思って、また増えていくことに……。そもそも、自宅にある大量の積読本を読むために、しばらく借りるのは控えようと心に決めていたはずが、気づけば足しげく図書館に通っているのでした。

本棚が足りずに買い足し、それでも足りずにいろいろな引き出しがいつの間にか本に占拠され、段ボールや収納ボックスも積まれていくという……。紙の質感や装幀、たたずまいなどを含めての存在としての本を愛しているので、電子書籍に乗り換えるという選択肢はありません。それに、読書療法関連の取材やご相談の際に実物をお見せして話をするので、紙の本がないと困るのです。

1列に収納するはずの本棚が2列になり、時々落ちてくるようになり、「これは何とかしなければ」と思いながらも、日々の仕事に流されるまま、手つかずになっていました。

そんな私に、取材のご依頼がありました。最近はオンラインの取材も多いですし、対面の場合でも、いつもは近所のカフェなどで対応しています。ところが、今回の取材は、自宅でくつろいだ中でインタビューをするのが趣旨だそうで、書棚を前にカメラマンの方が写真撮影をされるのだとか。思わず部屋の中を見回し、「いや、それは無茶でしょう!?」とお断りしたい衝動に駆られましたが……

「これは外圧だ! この外圧を利用して片づけなければ、ずっとこのままになってしまう!」

と思い直し、お引き受けして、撮影日までに片づけを決行することにしました。とはいえ、今すぐちょっとした本屋さんが開業できてしまう分量なので、これを整理するのは至難の業です。

最初に収納した時は、自分なりに文脈があって、それに沿って配置していました。たとえば、「自分が翻訳した本とその原書」とか、「認知症ケアの関連書籍」とか。また、読書療法の中でも、「矯正教育と読書療法」とか「老いと読書療法」とか「グリーフケアと読書療法」という具合に。それが、次々にその場しのぎで空いているところに手元の本を置いていくものだから、文脈がごちゃごちゃになってしまっていたのです。

片づけていると、地層を発掘するようにして、埋もれていた文脈を発見していきます。そこに、「この本も、この文脈に当てはまるよね?」と加えて整理していくので、本の整理がそのまま脳内の整理につながっているのを感じます。ということは、頻繁に本の整理をしていれば、もっと頭の中がクリアな状態で過ごせるのでしょうか?

それ以前に、読めないほど買い込んでしまうのをどうにかしないといけないのですが……。これは、「もうちょっと痩せたら着られるから」といって入らないサイズの洋服を買うのにも似ているような気がします。「いつか賢くなってどんどん読んで理解できるようになったら、積読本の山も一瞬で片づくから」という幻想をどこかで抱いているのかもしれません。

あれこれ考えながらも、この大問題を解決する妙案は浮かばず、粛々と片づけに励むばかりです……。

※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。

※出版翻訳に関する個別のご相談はコンサルティングで対応しています。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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