第309回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート70
出版翻訳家デビューサポート企画第2期生のレポートをお届けします。第304回に引き続き、海外在住のMさんの進捗状況をお伝えしましょう。
持ち込み先からのお返事を待つ間、Mさんは手がけたい作品の翻訳を次々に進めてきました。同じ著者による自然科学絵本3冊の翻訳を終えた後、この著者の4冊目の絵本の企画書と試訳も完成したというご連絡をいただきました。
拝見すると、今回は自然科学絵本ではなく、動物の親子の家業にまつわる、かわいらしい絵本です。著者の絵のテイストも作品によって変化が見られますが、この作品の絵柄がいちばん日本人の好みに合っているように感じます。
絵の魅力が目を引きますが、しっかりしたテーマも備えています。子どもにとって楽しめるだけではなく、読み聞かせなどで一緒に読む親にとっても、親子の関わりや、自分自身の仕事の在り方、さらには事業継承というところまで、考えをめぐらせることができそうです。
Mさんの企画書や試訳はいつもながら完成度が高く、特に修正が必要なところはありませんでした。ただ、一点だけ気になったことがあります。動物のサイをもじった場所が登場するのですが、そこの部分が「さい がい」となっているのです。これを見ると、どうしても「災害」と読めてしまうんですよね。
これは本文ではなく、絵の中にある言葉を訳したものです。そういう意味では本文ほど目に留まるわけではないでしょうが、子どもは気に入った絵本を繰り返し隅々まで読みますからね。絵本の場合は特に、どんな状況で読まれるかに注意が必要かと思います。日本は災害の多い国ですので、被災地で読む子もいるでしょう。被災後に図書館が開いて、子どもたちが集まってきて、楽しみに絵本を開く。その時に「災害」と読める言葉があったら……やっぱり、読む気になれないのではと思うのです。
その点だけは修正していただくことになりましたが、それ以外はすぐに持ち込みができる状態です。ここで、持ち込み方について、Mさんからご質問がありました。
これまでに同じ著者の自然科学絵本3冊のうち、1冊目を優先しようと思っていましたが、自然科学絵本は3冊まとめて持ち込んだほうがいいような気がしてきたとのこと。そして今回の4冊目も一緒に著者の絵本シリーズとして持ち込むべきか、それとも単体で持ち込むべきか、悩んでいるそうです。
同じ著者の作品は同じ出版社にまとめて出してもらいたいものですが、今回の4冊目に関しては、別の扱いでもいいかもしれません。というのも、多くの出版社に好感を持たれる作品だからです。自然科学絵本のほうが企画を通しやすいと考えていましたが、絵のタッチなどからすると、もしかしたらこの作品のほうが通しやすいかもしれません。4冊目を突破口にして、自然科学絵本3冊をまとめて見ていただけるように動いていくというアプローチがよさそうです。
1冊目の自然科学絵本はA社に持ち込みをして、お断りだったものの、Mさんはすでに何度もやり取りをして関係性をつくってきているので、まずはA社にご相談することをおすすめしました。A社なら著者のことを知ってくださっていますし、お断りとはいえ、評価もしてくださっていました。もし4冊目が気に入っていただけたら、本書をきっかけに、1冊目を含めた自然科学絵本シリーズも検討していただける余地があるかもしれません。
Mさんによると、○社からは一定の期間にお返事がなく、お断りということになったそうです。次を探していたところ、編プロの方から△社の編集者さんをご紹介いただく機会があり、この著者の作品を4冊まとめて見ていただけるとのこと。まとめて刊行できればそれがいちばんですので、そうなることを期待しつつ、もしダメな場合には4冊目をA社にご相談することになりました。また追ってご報告しますね!
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