第306回 1年あれば……
みなさま、あけましておめでとうございます。
年末年始はどのようにお過ごしでしたか? まとまった時間が取れて、このチャンスに企画書や試訳を仕上げた方もいらっしゃるでしょう。あるいは、この期間だけは少し翻訳や持ち込みから離れて、リフレッシュした方もいらっしゃるかもしれません。
私はいつも年末になると、だんだん自堕落モードになり、年明けへの期待を募らせるようになります。年が明けたら、きっと朝も爽やかに起きられて、仕事はサクサクはかどって、積み上がった本もスッキリきれいになって……と、年明けとともに別人に変身できるような気がしてくるのです。
当然ながら一夜にして変身できるわけもなく、年が明けても朝はもうろうとして、仕事は溜まり、本は積み上がったままなのですが……… 。なんだか変われそうな予感を持てるのが、新年の良いところなのでしょうね。
自分で生活を整えなければ朝の目覚めは快適にはならないし、自分が手をつけなければ仕事は進まないし、自分で片づけなければ本の山はなくならないんですよね。年齢を重ねることの良さは、自分が動かなければ始まらないと納得できることと、「急には変われなくても、ちょっとずつなら変わっていける」と実感できるようになることだと思います。そして、その「ちょっと」を積み重ねていくと、1年あれば結構いろいろなことができるものなのです。
お正月に恩師の清川妙先生の『いつの日の自分も好き』という本を読んでいて、そんな思いを深くしました。先生は90代になっても、精力的にご執筆やご講演に励んでおられました。お忙しい中でも、ちょっとした時間をかき集めてお仕事に臨んでおられたことや、ご自身の活動をやり抜く強い意志を持っておられたことを感じ、本書を通して先生に再会する喜びを味わうとともに、尊敬の思いを新たにしました。
本書の中に、こんな言葉があります。
“ものを書いて生きるという夢が叶ったいま、できるだけていねいに、心こめて、読者に語りかけたいと、私は書きつづけている。そんな日々の姿を、自分の姿を、自分でも好きと思わなければ、けっして人の心に訴えかけるものは書けないと思う。
ていねいでなければ、いい仕事はできず、自分を愛して生きなければ、心ふかい人生は得られない。長い人生の間、挫折の日、絶望の日もあるけれど、どんな日にも自分を好きでいられる心をバネにして、肯定の日々、充実の日々につないでいきたいと思う。”
企画が思ったように動かない時やお断りの言葉にダメージを受けた時など、投げ出したくなってしまうこともあるかと思います。でも、どうしても読者に届けたい本であれば、必ず道があるはずです。つい近視眼的になってしまうものですが、1年あれば、きっとかなりのことができるはずです。もちろん、気を抜くとあっという間に過ぎてしまうのが1年でもありますが、気づいた時にこまめに軌道修正しながらやっていけば、多くのことが達成できるはずですよ。
本書の言葉を読者のみなさまにお福分けいたします。ご一緒に、それぞれのペースで、進んでいきましょう。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。
※出版翻訳に関する個別のご相談はコンサルティングで対応しています。