TRANSLATION

第303回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート68

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

出版翻訳家デビューサポート企画第2期生のレポートをお届けします。第299回に引き続き、海外在住のMさんの進捗状況をお伝えしましょう。

自然科学絵本を持ち込んだA社からのお返事を待つ間、同じ著者による他の作品の翻訳を着々と進めていたMさん。お返事には時間がかかるかもしれないと編集者さんから聞いてはいたものの、いつまで待てばいいのか……。そこで、Mさんからリマインドのタイミングについてご相談がありました。

「時間がかかる」というのがどれくらいの期間を意味するのか、出版社によってかなり違うので、判断が難しいところです。1か月くらいの場合もあれば、半年くらいの場合もあります。傾向としては、ビジネス書だと出版社にもスピード感があるので期間も短くなりがちですが、文芸書だと出版社もじっくり構えているため長くなりがちです。

Mさんによると、すでに3か月経っているとのこと。それなら、リマインドしても問題ないと考えました。もうすぐ12月になる頃でしたので、12月初旬のタイミングで、「師走になりましたね」などという書き出しのメールでご連絡して、「年末のお忙しい時期になる前に、ご様子を伺えればと思いまして……」とリマインドすることをアドバイスしました。

タイミングとして12月初旬にしたのは、月が切り替わったタイミングだと話を切り出しやすいからです。リマインドする際は、どう切り出せばいいのか悩む方が多いものです。何かきっかけがあると切り出しやすいと思うので、カレンダーやお天気など、身近なところで探してみてください。たとえば「もうすぐクリスマスですね」など、話題にしやすいイベントを取り上げて切り出せばいいのです。ただ、実際にクリスマス近くになると、編集者さんが年末進行で余裕がないかもしれないため、初旬にしています。

タイミングを待ってリマインドしたMさんですが、残念ながら結果はお断りでした。物語の魅力やファンタジーの加減も評価していただけたものの、A社で販売していくには難しいという判断でした。でも、編集者さんから、個人的にはとても良い作品だと思ったというご感想をいただくことができました。さらに、こういう作品が得意な出版社があるはずだから、と持ち込みを続けることを勧めてくださったそうです。

「もちろんお断りをいただくと心にダメージを受けますが、こういった心温まるやり取りをすることで傷が少し和らぐのかなと思いました」というMさん。たしかに、人間的なものを感じられる部分があると、それを支えに、次につないでいけますよね。

お断りでも、そのまま終わりにしてしまわないのがMさんのすごいところです。来年秋から放映される、話題性の高い日本のテレビドラマにMさんの住む国が関連することから、この国の作品への需要が高まるかもしれないことをお伝えしました。そして、その際には思い出していただきたい旨をお伝えしたのです。

すると、A社でもこのドラマに関連することは注目しているそうで、「何かあればご連絡ください」と言っていただけたそうです。いい原書があるかもしれないと思い、Mさんはこれから調べてみるそうです。

日本のテレビドラマの放映予定までチェックしていることに驚きましたが、そうやってアンテナを張り巡らせて、チャンスのありそうなところを探していく姿勢が、結果につながっていくのだと思います。見習いたいですね!

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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