第297回 原書選びのヒント
先日、出版翻訳家デビューサポート企画の参加者がオンラインで集まって、国枝成美さんの出版お祝い会を開催しました。その時の話題の中から、今回は原書選びのヒントをお伝えします。
国枝さんは『根性論や意志力に頼らない 行動科学が教える 目標達成のルール』の原書を新宿高島屋の紀伊國屋書店にある洋書コーナーで見つけました 。
紀伊國屋書店で原書を探すというのは、目から鱗だったという参加者がいました。置いてあるのは日本でベストセラーになっている本の原書ばかりだと思っていたので、翻訳されていない本があるのかと驚いたのです。たしかに、そういうイメージがあるかもしれませんね。
実際、大半はすでに翻訳されているので、まだ翻訳されていない本を見つけるのは難しいと国枝さんも言います。今回の原書は20パーセントオフのシールを貼られて平積みになっていたのを目に留めたわけですが、その時にこう考えたそうです。
「まとまった冊数が20パーセントオフになっているのは、たくさん入荷したから。なぜたくさん入荷したかというと、それだけ原書が本国では売れていたからだろう。今回入荷した分は思ったように売れなかったみたいだけれども、本国でそれだけ支持された本なら、翻訳されたら売れるかもしれない」
同じものを見ても、「ふーん、セールなんだ」で片づけてしまう人も多いはず。そんな中、一歩踏み込んで考えることができたからこそ、この原書を見つけることができたのでしょう。
関連して、店頭で見つけた原書を買うか買わないか判断する際、何をどこまでチェックするのかという質問がありました。国枝さんは、翻訳書が出ていないかどうかだけはチェックするといいます。版権が取得されているかどうかは調べようがないものの、判断材料のひとつとして、原書の発行日を挙げてくれました。
翻訳書の出版期限は、原書の出版社との契約後2年以内の場合が多いようです。原書が出版されてすぐの旬の時期に出版社同士の交渉がなされていたとしたら、出版後2年経っても翻訳書が出ていなければ、版権が空いている可能性があると思っていいでしょう。もちろん、遅れて翻訳作業が進んでいる可能性はありますが、おおよその目安にはなりますよね。
国枝さんはまた、推薦文にも注目すると言います。『根性論や意志力に頼らない 行動科学が教える 目標達成のルール』の原書も、ノーベル経済学賞受賞者のリチャード・セイラー教授が推薦文を書いていることに目を留めました。日本でも高名な学者が推薦文を書いている本がヒットすることが多いからです。
実は、国枝さんはこれまでにインテリア関連の原書を持ち込んだこともありました。そのご経験から、インテリア関連は全般的に難しいと感じたそうです。日本の住宅事情が海外とあまりに違うため、レイアウトなどが参考にならないことが大きな理由です。もちろん、単に写真集的な形で楽しむ本であれば話は別でしょうが、実用的な本の場合は、日本のケースに当てはめづらいのでしょう。
「ただ、あまり考えていると選べなくなってしまいますよね。自分の好きなものであれば、たとえ企画が通らずにお蔵入りになっても、翻訳して準備している間、その時間も楽しめるのでは?」という国枝さん。それくらい惚れ込める原書が見つかるといいですよね。
原書選びについては、第38回「原書をどうやって探すのか①」、第39回「原書をどうやって探すのか②」、第40回「原書をどうやって探すのか③」もご参考になさってください。
お祝い会では他にも役立つお話がありましたので、次回の連載でご紹介しますね!
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