第294回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート66
出版翻訳家デビューサポート企画第2期生のレポートをお届けします。前回に引き続き、海外在住のMさんのもうひとつの自然科学絵本をご紹介しましょう。
こちらの絵本も、前回ご紹介した作品と同じ作者によるものです。企画書と試訳を拝見すると、独自のアプローチで自然科学を題材にした、魅力的な作品でした。
試訳のほうは、特に気になる点はありませんでした。前回ご紹介した作品と同様に、本書にもなじみがない動物が登場するのですが、絵があることと、巻末に解説があることから、問題ないと考えました。
Mさんが気になっていたのは、原文での言葉遊びにどう対応するかということでした。原文では韻を踏んでいるような部分があるのですが、ここをカタカナで処理しても、日本語だと韻を踏む形にはならないのです。それなら別の形で韻を踏んでみようとしても、なんだか無理やりな感じになって、浮いてしまうんですよね……。
こういう場合、無理に訳出しなくていいと思います。全編にわたって言葉遊びがちりばめられている本なら話はまた別ですし、言葉遊びの部分を重視した訳し方になるでしょう。だけど本書では、言葉遊びが登場するのはこの箇所だけですし、それが大きな意味を持つものではないからです。著者のちょっとした遊び心が出たという感じなので、その遊び心を他の箇所の翻訳で、あるいは作品全体を通して、うまく表現できればいいのではないでしょうか。
本書には関西弁の翻訳も合うのではないかと感じました。『どこいったん』のように、関西弁を活かした翻訳にすると、魅力がうまく引き出せると思ったのです。それに、関西弁なら言葉遊びの部分も対応できそうです。
ただ、本書は前回ご紹介した作品と同じ作者による作品で、Mさんもシリーズで刊行したいという思いがあります。そう考えると、トーンを合わせておいたほうがいいので、この作品に関西弁を使うのはやめておいたほうがよさそうです。
実は、Mさんも当初は全部関西弁にしようかと考えていたとのこと。でも、関西弁ネイティブではないので訳に不安があったため、結局やめることにしました。とはいえ、どうしてもあきらめきれず、絵の中の一部に関西弁を使っています。ほんの少し、隠し味くらいに使うのかいいのかもしれませんね。
企画書のほうで気になったのは、タイトル案でした。最初に拝見した時は、「このダジャレは、ちょっとどうかな……」と思ったのですが、本書を読んでみると、ダジャレのようなノリがたしかに合っています。あとは、もう少しつかみのインパクトが欲しいところです。「これだ!」というタイトルが何かないか、私も考えてみました。AIを活用して「もっとキャッチ―に」などと指定していくつか試した結果、言葉のリズム感があるタイトルがひとつ出たので、候補としてMさんにお伝えしました。
タイトルには動物の名称が入るのですが、この名称には2種類あります。一方は子どもにもわかりやすいので、絵本としてはいいのですが、言葉としてリズムが悪くなります。もう一方は、言葉のリズムがつくりやすいので、耳なじみのいいタイトルがつくれます。このあたりは、企画が通ってから編集者さんとご相談するのでもいいと思います。
Mさんは、前回ご紹介した作品の企画が通過した場合、どのタイミングで本書をご紹介すればいいか悩んでいました。これも迷うところですが、初回の打ち合わせの時がいいのでは、とお答えしました。諸々実務的なお話が済んだところで、「実は、もう一冊……」と切り出す感じです。もしかしたらメールのやりとりだけで進んでいくことも考えられますので、その場合は最初の段階でお伝えしておいたほうがいいでしょう。そのほうが、出版社としても、売り出し方などを考えられるからです。
A社からのお返事を待つ間、Mさんは本書の持ち込み態勢を用意万端整えつつ、さらに同じ著者による3冊目の自然科学絵本を翻訳中だそうです……! この姿勢に、感化される方も多いのではないでしょうか。
ご本人によれば、「お断りが続くことへの不安から何かしていないと心が折れてしまいそうで、自己防衛機能が働いた結果、生産性が増しているというのが、実情かもしれません」とのこと。「それでも手持ちの駒が増えるのは自分にとってプラスになることですので、引き続きせっせと訳していこうと思います」というMさん。きっと大きな実りが得られる日は近いと期待しています。また追ってレポートしていきますね。
※次回は出版翻訳家デビューサポート企画から見事に企画通過され、翻訳書『行動科学が教える目標達成のルール』が大好評発売中の国枝成美さんのインタビューをお届けします。どうぞお楽しみに!
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