第292回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート64
出版翻訳家デビューサポート企画第2期生のレポートをお届けします。今回は、海外在住のMさんの進捗状況をお伝えします。
ノンフィクション絵本を持ち込んでいたY社から、お断りのご連絡がありました。理由のひとつとして、「主人公の心情があまり描かれていないことに物足りなさを感じた」ということが挙げられていました。Mさんとしては、むしろ主人公の心情ばかりではないところに好感を抱いていたので、読み手によって180度解釈が異なる点が勉強になったと言います。
これは好みの問題もあるでしょうし、捉え方によって評価が分かれることもあるでしょう。たとえば、作品の終わり方についても、はっきり描かれていない場合に、「余韻があっていい」と捉えてプラスに評価する方もいれば、「描き切れていない」と捉えてマイナスに評価する方もいます。どちらの編集者さんに当たるかの違いでしょう。Mさんのように好感を抱く編集者さんもいるはずです。
ここで、Mさんから、ノンフィクション絵本の持ち込みを一時停止したいというご相談がありました。理由としては、日本での市場を獲得するのは難しいような気がしていることのほか、絵本パックのほうの持ち込みをしているうちに、自分の訳したい本が定まってきて、そちらに専念したい思いが強くなってきていることが挙げられました。中途半端な思いで持ち込みをしても原書に失礼なので、持ち込みを一時停止したいということです。
ご相談を受けて、私は一時停止をしても差し支えないとお答えしました。もしこれが、単に疲れてしまったという理由なら、持ち込みを続けていける方法を考えますし、モチベーションを保てるようにサポートしていきます。だけどMさんの場合は、事情が違います。
Z社、A社、Y社以外にも、この企画にご参加いただく前から、Mさんは本書の持ち込みをされていて、すでにお断りが15社に達していました。これだけアプローチを重ねる中で、市場の状況についての判断材料が増えて視座が高くなってきています。いわば成長の結果としての判断なんですよね。
ご自分の訳したい本がわかってきたというのも、すごく大切なことだと思います。Mさんは絵本パックのほか、自然科学絵本もすでに持ち込みを開始されていますし(こちらについては、また別途お伝えしていきますね)、さらにもう一冊、同じ著者による自然科学絵本も持ち込みたいと、企画書と試訳の用意を終えています。Mさんはエネルギーあふれる方ですが、それでもこれだけ多くの作品を手がけていると、どうしてもすべてに同じようにエネルギーは注げないものです。そう考えれば、「これは」というものに集中していくほうがよさそうです。
Mさんの翻訳のクオリティやスピード、それに熱意や行動力を拝見していると、プロとして次々にお仕事をこなしていける方だと思うのです。近い将来そういう状況になって、編集者さんとのお付き合いも増えていくことでしょう。だから、ノンフィクション絵本に理解を示してくれる編集者さんに出逢った時に、またこの企画を動かしていけばいいのではないでしょうか。実際、多作な作家さんのお話を伺うと、手元に企画書とその完成原稿が10作品以上あって、オファーがあった時にすぐに出せるようになっているそうです。そんなふうに、Mさんも手持ちの企画のひとつとして持っておいて、ふさわしい時期が来たら進めるという扱いにしておくのがいいと思います。
アドバイスを受けて、Mさんはノンフィクション絵本については、将来的にふさわしい時期が来るかもしれないので、その時まで寝かせておくことにしました。その分、他の持ち込み企画にエネルギーを注ぐことになります。
また追ってレポートしていきますね!
※出版翻訳家デビューサポート企画から見事に企画通過された国枝成美さんの翻訳書『行動科学が教える目標達成のルール』が発売になりました! 国枝さんのインタビューも掲載予定ですので、どうぞお楽しみに!
※拙著『古典の効能』の読書会を9月28日(土)に浅草の書店さんで開催いたします。この連載の読者のみなさまともお会いできればうれしいです。
※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。
※出版翻訳に関する個別のご相談はコンサルティングで対応しています。