第286回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート61
今回の出版翻訳家デビューサポート企画レポートでは、前回に引き続きIさんの企画についてレポートしていきます。
あとは版権交渉が済んでJ社から正式なご依頼があるのを待つばかりになっていたIさん。編集者さんからお仕事がしばらく立て込んでいると伺っていたので、その時期が過ぎるのを待ってご連絡を差し上げました。ところが、何度ご連絡をしても、まったくお返事がありません。
メールに電話、さらに個人的にLINEも交換されていたそうで、そちらにもご連絡を差し上げたものの、なしのつぶて。J社を訪問した際に、原書や参考図書を検討用にお預けしていて、返却していただくはずなのですが、こちらについても何のご連絡もありません。
Iさんからご報告を受け、どうしたのだろうと私も不思議に思いました。編集者さんからのお返事がない場合、次のようなことが考えられます。
・ご本人の体調不良
・忙しすぎて手が回っていない
・報告できる出来事が近いので、そのタイミングを待っている
ただ、訪問してお会いして、しっかりお話をしたうえで進めているのに、これだけ反応がないのは解せません。
Iさんは、J社につないでくださった批評家の方にもご相談したうえで、思い切って編集部の代表番号に電話をしてみました。留守電にメッセージを残したところ、別の編集者さんが折り返してくださり、ご本人にもご伝言いただけるとのことでした。その際、経緯も簡単にご説明したそうですが、その後もご本人からのご連絡はありませんでした。
Iさんは念のためにもう一度電話をして、今回もご連絡をいただけないようなら企画を引き上げたい旨をお伝えしました。このことについては、批評家の方にもあらかじめご了承いただきました。
結局、それでも当の編集者さんからのご連絡はなかったので、Iさんはメールを送り、企画を引き上げることにしました。
「翻訳も、なんなら始めてくれてていい」とまで言われていたので、正直なところ、今も狐につままれたような気分だというIさん。でも、「まあ、こういうことも世の中にはあるんだな、という意味では勉強になりました」と受け止めています。
すでにJ社とお仕事をされている批評家の方のご紹介ですし、直接お会いしてお話を進めていただけに、こういう展開になるとは私も思ってもみませんでした。ようやくIさんのこれまでの努力が実る、それも最高の形で……と喜んでいただけに、私のほうがJ社に対して苦情を言いたいくらいです。
だけどIさんは、「これ以上引きずっていても無駄にエネルギーを使わされるだけなので、気持ちを切り替えて、前進します」と言います。お預けしている資料についても、「あと数回だけお願いして、それでもお返しいただけない場合は、勉強代だと思って買い直すことにします。割り切れない思いは残りますが、企画を前に進めるほうが大事ですので……」と、前に進むことを考えています。
もちろん、Iさんにもいろいろな思いがあることでしょう。「どうしてこんなことに」と嘆いたり恨んだりすることもできます。これはもう人生観に関わる話になってきますが、どのように過ごしても、結局それによって自分が生きている時間を費やしていることには変わりません。人生の終わりは誰にとっても刻々と近づいていることを考えた時、自分に残されている時間をどう使うかという問題になるのでしょう。
何を大切にするかを選んで、前に進むことにしたIさん。そんなIさんを引き続き応援したいと思います。それに、なんとIさん、すでに次の行動をとっているのです! また追ってレポートしますね。
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