第285回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート60
今回の出版翻訳家デビューサポート企画レポートでは、前回に引き続きIさんの企画についてレポートしていきます。
講演会の後で、思い切って批評家の方に話しかけてみたIさん。名刺交換をして、企画についてもお話することができました。「もしかしたら、この批評家の方も、同様の企画を進めていらっしゃるのかも?」と心配していたのは、考えすぎだったようです。実際には、原書は未読とのことでした。アーティストに関する論考に原書と共通する内容があったのは、きっと本書を基にした情報を参考にされたのでしょう。
Iさんが名刺交換後にお礼のメールをお送りしたところ、企画に関心を持ってくれそうな出版社を複数教えていただけました。さらに、もしI社との交渉がうまくいかない場合には自分に相談してほしいという、ありがたいお申し出までいただけたのです。やはり、こういう場に足を運ぶことで得られる出逢いがあるものですね。
I社のほうの動きを確認するために、Iさんは営業担当者の方にご連絡することにしました。追加情報はすでに郵送していましたので、今回はメールでご連絡を差し上げました。すぐにお返事をいただくことができましたが、残念ながらお断りでした。
編集部と何度か話してくださっていたものの、翻訳書の刊行点数が多くないこと、資材高騰によって原価計算がこれまでよりずっと厳しくなっていることから、現状では難しいという判断でした。円安の影響が出てしまったのですね……。
忘れないで編集部の方にフォローしてくださっていたことに感謝をしつつ、I社はあきらめ、心機一転、企画書と試訳を含む参考資料をアップデートして批評家の方にご連絡を差し上げました。
早速お返事があり、心当たりのある出版社3社につないでいただけることになりました。順番やタイミングについてはお任せし、ご連絡をお待ちしていたところ、J社に前向きにご検討いただけるかもしれないとのこと。企画書を読んだJ社の方が、とても重要な本だと評価し、今後日本でも広く知られるようになるアーティストだと思うので、長く読み継がれる本にしたい旨のコメントをくださったそうです。さらには、プロモーションについても考えたいという話が早くも出てきました。アート関係に強い出版社だけに、頼もしいです。
その後、J社の編集者さんからIさんに直接ご連絡があり、実際にお会いすることになりました。その際に、今後の進め方やスケジュールなどを相談したいそうです。
お会いして順調に話が進み、まずは版権の状況を確認することになりました。空いていれば交渉に入ってくださるそうで、無事に版権が取れたところで正式にご依頼いただけることになりました。販売のためにいろいろ仕掛けていこうというアート系の編集者さんならではの視点に、Iさんは感動したそうです。
ご報告を受けて、理想的な展開にうれしくなりました。多くの出版社に次々にアプローチしてきたIさんが、ついにたどり着くべきところにたどり着いたと思ったのです。プロモーションにも力を入れてくださるようですし、大きく動いていくのではないかと期待が高まります。
あとは版権交渉が済んで正式なご依頼があるのを待って、Iさんの企画通過をご報告してお祝いできる! そう思って楽しみにしていたのですが……次回に続きます!
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