第284回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート59
今回の出版翻訳家デビューサポート企画レポートでは、Iさんの企画についてレポートしていきます。第2期生としての絵本企画も進めているIさんですが、第1期生としての企画であるアーティストの評伝も、しっかり進めています。そちらの進捗についてお伝えしましょう。
I社の営業担当者の方から温かいご連絡をいただいてからしばらく時間が経ち、そろそろリマインドするべきかどうかを悩んだIさんから、私にご相談がありました。
営業担当者の方のご様子からして、きっと社内で働きかけてくださっていると思いましたが、お話が動くまでに半年くらいはかかるのかな、と感じました。その間に関係性をつないでおくために、ご連絡を差し上げることも大切です。最初にアプローチした際にお手紙を差し上げているので、今回もメールではなくお手紙をお送りすることをアドバイスしました。リマインドするというよりは、季節の便りのようなイメージです。
アドバイスを受け、Iさんは企画関連の追加情報を郵送することにしました。評伝で扱われているアーティストに関する論考の雑誌記事と、作品が展示される可能性のある美術展のご案内です。
一方で、Iさんは美術方面での情報収集も積極的に進めていました。ちょうどその論考を書いた批評家の方の講演会があるのを見つけ、もし機会があれば、講演会の終わりにでもご挨拶させていただければ……と考えて出かけることにしたのです。
ただ、Iさんにはひとつ、心配なことがありました。「もしかしたら、この批評家の方も、同様の企画を進めていらっしゃるのかも?」という気がするのです。考えすぎかな、とは思うものの、論考を読めば読むほど、そんな気がしてならないと言います。こういう状況で、もしご挨拶できたとして、どのようにご挨拶すべきなのか、また、企画に関してどこまでお話しすべきなのか、ご相談がありました。
私は、もしその批評家の方が同様の計画を進めていたとしても、ご自分が翻訳したいとは思わないだろうと考えました。だったらむしろ、チャンスなのではないかと捉えたのです。批評家であれば、ご自身の出版実績が増えることは基本的に歓迎するでしょうが、そのために翻訳をするよりは、監修や序文などのほうが労力をかけずにすむわけですし、「どちらが翻訳するか」でもめることにはならないでしょう。
ご挨拶の際に、執筆された論考を拝読した旨と、「もしかして、こちらの本をご参考にされたのでは……?」と突っ込んでお尋ねしてみることをおすすめしました。元ネタを知っている方はそういないでしょうから、ある程度深いお話もできるはずです。「出版したいと思って進めているんです」と、すでに動いていることをお伝えしてみるのもいいかもしれません。
取り合うというよりは、お互いに「翻訳の実力」と「批評家としての知名度や人脈」を合わせてウィンウィンに持っていけるのが理想だと思いました。うまくすれば、お互いに「渡りに船!」と思うかもしれません。少なくとも同じアーティストに肩入れしているのですから、話が合う部分も多いのではないでしょうか。
そんな考えをお伝えすると、Iさんはご挨拶をしてみることにしました。講演会の後で、思い切ってその批評家の方に話しかけてみると……次回に続きます!
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