第273回 ここに注意!見落としがちなポイント~試訳編~
セルフチェックでは、どうしても見落としがちなポイントをまとめてお伝えするシリーズ。前回の企画書編に続き、今回は試訳編をお届けします。持ち込みの際のチェックリスト代わりにご活用ください。出版翻訳家デビューサポート企画にご応募いただく際にもお役立てくださいね。
・表記の問題(知識不足)
表記については、第199回「どうして表記が大事なの?」で詳しく解説していますので、そちらの記事もぜひご参照ください。
まずは、基本的なルールを知らないケースがあります。以前にも用いた例ですが、以下のような文章が見受けられます。
「本当ですか?驚きました!まったく知りませんでした。」
正しい表記は、次のようになります。
「本当ですか? 驚きました! まったく知りませんでした」
「?」や「!」の後には、1字分のスペースを空けます。また、かぎ括弧に括られた会話の末尾には、句点は入りません。ただし、児童文学の場合には句点を入れる表記もありますので、持ち込み先の出版社の刊行作品をチェックしたうえで、その表記に合わせるようにしましょう。
・表記の問題(配慮不足)
「二人」と漢数字で表記を統一しているのに1箇所だけ「2人」と数字になっているなど、注意が行き届いていないケースが多く見受けられます。こういうミスを頻発すると、文章に対する意識が低いと思われかねません。せっかく翻訳自体の完成度が高くても、下手に見えてしまうこともあります。それではもったいないので、細部までしっかり気を配るようにしましょう。
「つなぐ」と「繋ぐ」のように、ひらがな表記と漢字表記が混在している場合も、何か意図があって使い分けているのでなければ、不統一だと目を引いてしまいます。また、インデントの抜けも目につくものですので、しっかりチェックしましょう。“○○○○”や‘○○○○’とクォーテーションマークが多用されている場合、字面がうるさくなりますので、かぎ括弧に置き換えて「○○○○」と表記します。ダブルクォーテーションとシングルクォーテーションの使い分けに特に意味がない場合は、いずれもかぎ括弧に置き換えて構いません。
・トーンの不統一
「~です」「~である」が混在している場合も、意図があってのことでなければ、読みづらいので統一しましょう。文体という基本的なことだけでなく、文章の雰囲気にも気を配るようにしてください。たとえば、簡潔な表現で統一され、落ち着いたトーンになっているのに、そこに「ありとあらゆる隅っこの部分を」という言葉が入ると、急に幼い感じになってしまいます。この言葉によって全体の調和が崩れてしまうので、「隅々まで」など、トーンに合った言葉に置き換えましょう。
・不自然な名詞の連続
原書では名詞が続く場合がよくあります。それを訳出しただけでは日本語として不自然で、「間違ってはいないのだけど、わかったような、わからないような……」という文章になってしまいます。たとえば、こんな文章です。
「一連の問題、恐怖、そして疑問を抱くようになる」
こういう場合は、動詞を適宜補うことで、意味も伝わりやすくなります。
「一連の問題と向き合い、恐怖を覚え、そして疑問を抱くようになる」
訳文がこなれていない時によくあるパターンですので、気をつけて手を入れていきましょう。
・状況の整理不足
本の冒頭部分では、読者の興味を引くために、どういう状況なのかわからないような書き方をすることがあります。謎を持たせることで、先に読み進めてもらえるように、読者を引っ張っていくのです。だけど、状況整理がされていないと、必要以上に読者に負荷をかけてしまいます。「何が起きているのか知りたい」という興味よりも「どういう状況なのか理解できない」というストレスのほうが大きくなってしまうと、読み進めてもらえません。どこまで読者に説明するべきか考えながら、状況整理をするようにしましょう。
・原書への配慮不足
これは絵本の場合ですが、原書の文章の行数と訳文の行数を揃えるようにします。もちろん、言葉の違いがあるので完全に同じにはなりませんが、意識しなければいけませんし、絵に文字がかからないようにするなど、配置にも気をつける必要があります。
絵本の文章は短いものの、原書には斜体で表示されていたり、“you”ではなく“YOU”と大文字で表記されていたりすることがあります。著者の意図をしっかり汲み取るようにしましょう。また、最初に登場する文章と終わりのほうで登場する文章が繰り返される、リフレインの形式になっていることもあります。構成を見落とすことなく、訳文にも反映させていきましょう。
※出版翻訳家デビューサポート企画の新規募集について、詳細はこちらの記事をご覧ください。
※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。
※出版翻訳に関する個別のご相談はコンサルティングで対応しています。