第272回 ここに注意! 見落としがちなポイント~企画書編~
企画書や試訳を用意したら、見直しをしますよね? だけどセルフチェックでは、どうしても行き届かないことがあるものです。そこで、見落としがちなポイントをまとめてみました。持ち込みの際のチェックリスト代わりに活用していただけたらと思います。出版翻訳家デビューサポート企画にご応募いただく際にも、ぜひお役立てくださいね。今回は、まずは企画書編をお届けします。
・客観性の欠如
「この原書が好きだ!」という気持ちは伝わるものの、「なぜ、この原書を今の日本で出すべきなのか」が伝わってこないケースがあります。出版社にしたら費用を負担して出版するわけですから、その本が世の中で求められていることを知りたいわけです。客観的な視点からそこをしっかり伝えられているかどうか、見直してみましょう。
もちろん、「この原書が好きだ!」という気持ちは出発点ですし、その「好き」のレベルが、たとえば牧野富太郎の植物愛のように突出したものであれば、それが目に留まることもあります。あるいは個人的な経験によって思い入れがものすごく強い場合は、その経験を伝えていく方法もあります。ただ、これらのパターンは、よほどその愛情やストーリーに力がなければ難しいものです。実際に編集者さんとお会いできる段階になれば、そこで熱く語ることもできますが、企画書で伝えるためには、熱量を届けるための技術が必要になります。
・圧の強さ
原書の内容を重要視するあまり、「これは日本人が絶対読むべき!」という調子になってしまうと、企画への共感は得にくくなってしまいます。圧が強いと、内容を押しつけられたように感じてしまうため、相手は引いてしまうものです。「一緒にやりたい」と思えるような、相手を巻き込んでいく調子にできないか検討してみましょう。
・「日本で言うなら?」という視点の欠如
たとえば著者の受賞歴やメディア掲載歴など、業界でよく知られたものは別として、日本ではなじみのない賞やメディアだと、価値が伝わりづらいものです。でも、そこで「日本で言うなら直木賞」「日本で言うなら日経新聞」と説明してもらえれば、ぐんと理解しやすくなります。原書にずっと関わっていると、はじめてその情報に接する人の視点を忘れてしまいがちです。日本でなじみ深いものに置き換えて、伝わりやすくすることを意識してくださいね。
・対象読者についての想像不足
「対象読者はビジネスパーソン」のような、おおざっぱな記述も見受けられます。ビジネスパーソンといっても、20代の若手でまだ仕事がおぼつかないのか、40代でかなり大きな仕事を任されて活躍しているのか、年代や経験などによって細かく分かれてくるはずです。自分が届けたい相手をもっと具体的に思い描いてみてください。年齢や職業などの属性で伝える書き方だけでなく、「小説家の○○や○○の愛読者で、好きな作品は『○○○○』」「カフェと雑貨が大好きで、週末は地方の人気カフェを回るのが趣味」という具合に趣味や生活パターンから読者像を描いていくこともできます。
・類書情報の検討不足
類書が出版されているのは、読者がいる証拠です。類書を記載するのは、まずは市場があることを示すためです。だけど、ただ漠然と同じ分野の本を列挙したケースも見受けられます。「なぜこの類書を記載するのか」をもう一度考えてみましょう。これは、対象読者がはっきりしていないことにも関連していると思います。どういう人に読んでもらいたいのかがわかれば、記載するべき類書も見えてくるはずです。
類書があるということは、原書に関する情報がすでに出尽くしてしまっていることをも意味します。さらに出す意義があることを示すために、しっかり差別化をしていきましょう。どんな新規性があるのか、忘れずに伝えてくださいね。
次回は試訳編をお届けします。
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