TRANSLATION

第266回 長く読み継がれるということ

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

拙訳『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』が3刷になり、出版社から見本が届きました。

本書は出版社が倒産したために一度絶版になっています。このことについては「出版社が倒産したら?」という記事で3回にわたって書いています。この記事をお役立ていただけるような状況にならないことを願うばかりですが、もし困った時にはご参照くださいね。

絶版になったのが復刊されるだけでも奇跡的なことですが、こうしてまた重版になることは、文字通りの意味で「有り難い」ことだと思います。

以前の出版社で13刷でしたので、あわせて16刷ということになります。初版だけで終わってしまう本が大半の中、なかなかのロングセラーに育ってきました。

せっかく一生懸命に翻訳して世に出した本なら、やはり長く読み継がれてほしいものです。何もせずとも作品の力だけで広まっていってくれるのが理想ではありますが、残念ながらそういうケースは少ないでしょう。つくり手側が積極的に関わり続けることが必要になると思います。

本書の場合は、福祉系の大学などでテキストとして使用されていることも、読み継がれる理由のひとつでしょう。本書で学んだ方たちが実際に介護現場に入り、そこで他の職員の方たちに伝えていってくれる場合もあると思います。また、定番のロングセラーとなったことで、職場の先輩におすすめされて読んだという話も聞いています。

もちろん、私自身もずっと動いてきました。以前は介護施設などで研修をする機会が多かったため、その場で販売できたのですが、コロナ禍以降はオンライン講座のみで、手に取っていただくことが少なくなってしまいました。そんな中、できることのひとつとして続けてきたことに、読書会があります。

2年ほどかけて一冊を読むような「究極の遅読」の読書会を開催し、本書もそうやって読んできたことで、自分の経験と照らし合わせながら深く読み込んでくれる読者の方々と出逢えたと思っています。

読書会といえば、先日、越前敏弥さんの『オリンピア』の読書会に参加させていただきました。翻訳学校の生徒さんなど、近い間柄の方が多いのかと思っていたのですが、意外にも参加のきっかけはかなり幅広いものでした。会場となる書店さんの常連で、その書店さんのイベントだから参加したという方もいらっしゃいましたし、イベント検索サイトで知ったという方もいらっしゃいました。

それぞれに深く作品を読み込んだ、熱量の高い読者の方々が集まっていました。もっと気軽なイベントなら、参加のハードルが低いので人数は集まるものの、そこまで深く作品と関わった読者と出逢うことは難しいのではないでしょうか。そういう読者であればこそ、他の方たちにも作品の魅力を伝え、広めていってくれるのではないかと思います。

熱量の高い読者というと、どうしても自分に近いところを想像してしまいがちです。だけど、どこにいるかわからないものなんですよね。そんな読者の方々と出逢いながら、また次の読者の方々につないでいただきながら、手がけた作品が長く読み継がれるように動いていきたいと思います。

※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。

※出版翻訳に関する個別のご相談はコンサルティングで対応しています。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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