第264回 翻訳される立場になってわかること、ふたたび
拙著『心と体がラクになる読書セラピー』をタイ語に翻訳していただき、先日見本が手元に届きました。
中国語繁体字版が発売された時に、「翻訳される立場になってわかること」という記事を書いています。その時の感想は、
「ほお~」
でしたが、今回は、
「へえ~」
でした(笑)
「これはこれは、珍しいものを頂戴しまして」という感じです。
中国語繁体字版の時には漢字というとっかかりがありましたが、タイ語はまったく読めないので、お手上げです。
実は、お話を進める段階でカバーデザインをお送りいただき、「ご確認ください」と言われたのですが……そう言われても、読めません。
「かわいいイラストですね」
と、間抜けなお返事しかできませんでした。「もっと原著者として重みのあるひと言を!」「含蓄のあるコメントを!」と、内面でツッコミの嵐が巻き起こりましたが……。
でも、実際、かわいいんですよ。色調も日本では見かけない感じになっていますし。こういう色合いが現地の方には好まれるのでしょうか。やはりローカライズされているのですね。
ローカライズといえば、内容もローカライズされているようです。現地の出版社の作品紹介サイトを自動翻訳ソフトで見てみたら、「ピクルスの山を作りたい場合」と出てきました。はて、ピクルスについて書いた覚えはないのですが……(笑)。これはタイでの「あるある」なのでしょうか。日本語版でこれに相当する記述が何なのか、謎のままです。
そういう点が気になるということもなく、「へえ~、おもしろいな」という感じです。やはり、自分から遠い言語になるほど、独立して感じられるからでしょうね。どこかで育てられて立派に成人した我が子が挨拶に来てくれたようなもので、ただただ、現地の方たちに愛されて育っておくれ、と願うばかりです。
それにしても自動翻訳での内容はかなり意味不明で、前回の越前敏弥さんのインタビューでもAIと翻訳の話題がありましたが、人の介在する余地の大きさを感じさせてくれるレベルです。自著なので、「これはこのことを指しているんだろう」とおおよそ見当がつきますが、そうでなければ、いったいどんな本なのか想像がつきません。
きっと本書も、タイの方たちに伝わりやすいように、翻訳家の方があれこれ考えながら仕上げてくださったのでしょう。そんな翻訳家という名の妖精さんに感謝の念を捧げながら、「へえ~」と繰り返しつつページをめくるのでした。
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