第260回 打たれ弱くても、がんばれる!?
最近は、打たれ弱い人が増えたと言われます。若い世代ほどその傾向が強く、叱られるとすぐに辞めてしまうので、叱らない指導に頭を悩ませる上司も多いと聞きます。
驚いたのは、禅寺でもその傾向があるということ。叱られると修行僧が辞めてしまうため、叱らない指導をしているのだとか。「えっ? 修行僧なのに? 修行しに来てるんだから、叱られてなんぼの世界じゃないの?」と思うのですが……それだけ打たれ弱い人が実際に多いのでしょう。
そんなご時世で、断られ続ける持ち込みをするのは、かなりハードルが高いことなのかもしれません。
「打たれ弱い人が多ければ、みんなすぐにあきらめるから、続けていれば勝ち残れる!」と私は捉えるので、「打たれ弱い人が多いほどチャンスも増える」と思います。だけど中には、「自分は打たれ弱いから無理!」という方もいらっしゃることでしょう。
打たれ弱い方の場合、メンタル面を強化することで打たれ強くなることができます。これは生まれつきの性質というよりも、考え方やトレーニングの問題なので、誰でも変えていけるものです。「第106回 出版翻訳家とメンタル~ABC理論」「第133回 ネガティブな評価をされたときは?」の内容をぜひご参照いただけたらと思います。
もうひとつが、モチベーションからのアプローチです。モチベーションについては、「第143回 勉強のモチベーションを保つには?」「第120回 夢をあきらめそうなときは?~前編」「第121回 夢をあきらめそうなときは?~後編」でも詳しく書いていますので、そちらもご参考になさってくださいね。
何が自分のモチベーションにつながるのかをわかっていない方は、意外と多いのではないでしょうか。たとえば、私の場合であれば、翻訳した作品を読んだ方が「今までは介護でつらかったけれど、この本のおかげで捉え方が変わって、やさしく接することができるようになって自分も楽になった」というご感想をいただき、自分の仕事が人によい影響を与えられていると実感できることが、何よりのモチベーションになっています。
そのため、手がけた作品の読書会を開催するなど、翻訳には直接関係しないような活動も、モチベーションになるという点では、大きく関わっているのです。
人によっては、翻訳した記事を人に教えてあげて喜んでもらえたとか、翻訳した物語がおもしろいと言ってもらえたとか、そんな経験があるのではないでしょうか。そしてそれが、自分の中で種になって育って、出版翻訳家を目指すことにつながったのかもしれません。
「手がけた作品をヒットさせて、みんなから『すごい!』と言われたい!」という承認欲求がモチベーションになる方もいるでしょうし、それはそれで大切にしてほしいと思います。ただ、実際には、自分のためだけにはなかなかがんばれないのが人間なのだと思います。
翻訳をされる方は特に、「自分のためにはがんばれないけれど、人のためならがんばれる」という傾向が強いのではないでしょうか? それなら、自分のその性質をうまく活用することです。
翻訳を進めている作品を、少しずつ人に読んでもらうのもいいかもしれません。相手が興味深そうに読んでくれている様子を目にしたり、感想をくれたのを読んだりすることで、「実際に本になったら、きっと喜んでくれるだろうな」という気持ちを自分の中で膨らませていきましょう。
お断りの返事があった場合でも、読んでくれていた姿や感想にあった言葉が心に刻まれていれば、その記憶が支えになってくれるはずです。「この本を楽しみに待ってくれている人がいるから」と思えば、次の一歩をきっと踏み出すことができるでしょう。
※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。
※出版翻訳に関する個別のご相談はコンサルティングで対応しています。