第253回 出版翻訳家デビュー記念インタビュー~よしとみあやさん 後編
出版翻訳家デビューサポート企画から見事にデビューを果たされたAさんことよしとみあやさんのインタビューをお届けしています。よしとみさんが翻訳された『わたしは あなたは~ベアトリーチェがアジザの、アジザがベアトリーチェの伝記を書く話』は12月15日に発売されたばかりです。本書の読みどころや、今後どうやって読者に届けていくのかなど、お話を伺いました。
寺田:『わたしは あなたは~ベアトリーチェがアジザの、アジザがベアトリーチェの伝記を書く話』の内容についてお話を伺いたいと思います。本書の読みどころを教えてください。
よしとみ:本書を読まれた方からは、「お互いに伝記を書き合うところが面白い」とか「ユニークだ」という意見が多いのですが、その通りだと思います。そこに惹かれたのがきっかけで、日本の読者に届けたいと思いました。訳している中で、大人たちが持っている偏見がサラッと、でもリアルに描かれているところもいいと思いました。大人にも読んでもらいたいです。ベアトリーチェのお父さんが差別される痛みを知っているのに差別をする側に回ったり、アジザのお母さんが住み込みのお手伝いさんとして働いている家の奥さんが冷たい態度をとったり、アジザのいる施設のシスターが、たしかにいいことをしてはいるのですが、「感謝しなさい」とやたらと言ったり……この人たちだけのことではなく、この国だけに限ったことでもなく、「あるある」なんだろうなと思うんです。そんな大人たちの偏見にも注目してもらいたいと思います。
寺田:なるほど。大人の読者にも気づきがありますよね。他にお伝えしておきたいことがあればお願いします。
よしとみ:本書で使っているフォントは、ディスレクシアの方にも読みやすいものなんです。これは私の提案を採用していただきました。以前読んだ原書でディスレクシアについての本があり、そこではディスレクシアでも読みやすいフォントを使っていました。日本ではあまりそういう配慮をされているのは聞いたことがないと思ったので、今回提案させていただきました。
寺田:そういう配慮がなされているのも魅力ですね。翻訳書がこうして無事に完成し、これからは読者に届けていくための作業に入るわけですよね。翻訳だけではなく、営業も含めて翻訳家の仕事だと考えています。特に持ち込み企画の場合、それが売れるかどうかで翻訳家の印象も変わってくるので、しっかり認知していただけるようにしていきたいですね。どのような形で本書を読者に届けていこうとお考えでしょうか?
よしとみ:私はシェア型書店でお店を持っているんです。棚を借りて自分の好きな本を置けるようになっているので、そこでPOPをつけて置いてもらうことを考えています。その書店にはイベントスペースがあって、お店を持っている人がイベントを開催できるようになっています。これまではそこで読書会をしてきたのですが、来月はこの本での読書会を予定しています。あとは、書店巡りもしなきゃと思っているのですが、まだできていない状態ですね。
↑よしとみさんが棚を借りている水野ゼミの本屋の様子。棚の左上に表示されている「itatana」(イタターナ)はよしとみさんの屋号です。
寺田:書店もですが、図書館や学校図書館にぜひ置いていただきたい本だなと思います。本書にも学校図書館の司書の方が登場しますが、実際にそういう方に本書のワークをやっていっていただけるといいですね。司書の方がいらっしゃるかどうか、まわりであたってみてほしいと思います。これは持ち込みの時に伝手を探したのと同じですね。
よしとみ:図書館には営業できるものなんでしょうか?
寺田:図書館の場合は、まわりの方にお願いしてリクエストしていただくのがいいと思います。「この本入っていないんですか? 置いてください」と。あとは出版社さんのほうから図書館営業をする形になるかと。
よしとみ:なるほど。
寺田:献本もされていると思いますが、本書は時節柄取り上げていただきやすいと思いますので、メディア関係者にお送りしておくといいですね。あとは、これまでにお断りいただいた出版社さんにも。
よしとみ:お送りしました。
寺田:素晴らしい! そして次のお仕事につなげましょう。
よしとみ:つながるんですかね(笑)。お送りした出版社さんからの反応はあったりなかったりですが、「あの時の企画が通ったんですね、よかったですね」と返してくださる方もいらっしゃいました。
寺田:「次は御社からぜひ」、と(笑)
よしとみ:(笑)。そのメールにはそこまでは返せていませんが、お送りする際の添え状には「今後また企画をお送りすることもあるかと思いますので、その時はよろしくお願いします」と書いています。
寺田:さすがです! ビジネス書の著者さんなどは新刊発売の際にamazonキャンペーンをすることがあります。同じタイミングで多くの方に購入してもらうことでランキングを上げ、「amazon1位」の実績をつくることもありますが……そういうタイプの本ではないですものね。地道にしっかり売っていくことが大切かと思います。
よしとみ:いろいろなやり方があるんですね。細く長く売れていってほしいです。
寺田:太く長く、でもいいんですよ(笑)
よしとみ:そうですね(笑)。太く長く、でももちろん。
寺田:それでは、今持ち込みをされている読者の方へのメッセージをお願いします。
よしとみ:えーっ! 私なんかが言うんですか?
寺田:私なんかって……(笑)。読者の希望の星のような存在なんですから。
よしとみ:「諦めずに一緒にがんばりましょう」でしょうか。私のほうから「ああしたらいい、こうしたらいい」とかいうのはないですし、諦めなかったからといってうまくいくとも限らないですけれども、ハイキャリアのこの連載があるので、みなさんがんばれていると思います。私もそのひとりです。私も今も企画を送っていますし、これからも企画を送っていこうと思いますので、一緒にがんばりたいです。
寺田:ありがとうございます。今後の抱負を教えてください。
よしとみ:企画を通して、2冊目、3冊目、4冊目……と出していきたいですね。今お返事を待っている企画が3件あるんですが、そのうち1件はお断りのお返事があったので、次にどこに持っていこうか考えているところです。他にも企画書をつくらなきゃと思っているものがいろいろあります。
寺田:来年にはそれらもまた動き出して実ってきそうですね。
よしとみ:ありがとうございます。実ることを祈って、がんばりたいです。
寺田:最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。
よしとみ:「読んでください、買ってください」です(笑)
寺田:大事ですよね(笑)。読者のみなさんにぜひ読んでいただきたいと思います。あらためまして、ご出版おめでとうございます。本日はありがとうございました!
最初にご相談をいただいた時とは別人のように、自信に満ち溢れて穏やかな表情のよしとみさん。終始笑いの絶えない、楽しいインタビューになりました。最近はメンタリティもだいぶ変わってきたそうで、企画が通ると信じられるようになってきたため、持ち込みを断られても「なんで?」と思うようになったそうです。「なんでこの作品のよさがわからないの?」と。その調子で、今後もきっと次々に企画を通していかれることでしょう。楽しみですね!
よしとみさんは第163回「出版翻訳家デビューサポート企画レポート⑦」と第202回「出版できる人、できない人」の記事を持ち込みの際に励みにしてくださったとのことです。よかったら、そちらもご参照くださいね。
※よしとみさんの翻訳された『わたしは あなたは~ベアトリーチェがアジザの、アジザがベアトリーチェの伝記を書く話』の読書会が2024年1月27日に水野ゼミの本屋(大阪市北区西天満)で開催されます。お申込みはメールアドレスoitmizuno[at]gmail.com(atを@に変えてお送りください)まで。
※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。
※出版翻訳に関する個別のご相談はコンサルティングで対応しています。