第251回 ChatGPTは出版翻訳企画の持ち込みに使えるの?④
ChatGPTは出版翻訳企画の持ち込みに使えるのかを検証するこの企画、今回が最終回です。他の観点からも提案が欲しいと思い、今度は別の指定をしてみました。
「出版社の条件としては、以下の3点をクリアしている必要があります。
・持ち込み企画を受け付けている
・絵本の翻訳書を出版している
・出版社の経営状態が良好である」
この条件を追加してみたところ、ChatGPT-3.5ではこんな回答が提示されました。
“素晴らしいですね!条件をクリアする可能性があるいくつかの出版社を挙げてみましょう。ただし、私の情報は2022年1月時点のものであり、最新の情報に基づく確認が必要です。以下は、条件を満たすかもしれない出版社の一例です:
福音館書店:
福音館書店は多岐にわたるジャンルの本を出版している老舗の出版社です。絵本に力を入れており、多様性を重視する姿勢が見られます。企画の持ち込みに関するガイドラインを確認し、翻訳絵本に対するオープンな姿勢があるか確認すると良いでしょう。
講談社:
講談社は幅広いジャンルの本を手がける大手出版社で、絵本も多く出版しています。翻訳絵本に対する取り組みがあるか、持ち込みに関する情報を確認してみてください。
偕成社:
偕成社も子供向けの絵本を多く手がけている出版社で、多様性や教育的なテーマに力を入れています。企画の受け入れ状況を確認し、翻訳絵本に対する関心を探ってみてください。
ポプラ社:
ポプラ社も子供向けの本に力を入れており、翻訳絵本に対するポリシーがあるかもしれません。企画の受け入れに関する情報を確認してみてください。
これらの出版社に対して、各社のウェブサイトや担当者に直接問い合わせ、条件を満たすかどうかを確認することが重要です。また、出版社によっては、翻訳作品に対する評価や受け入れの基準が異なるため、事前に十分なリサーチを行ってください。”
「持ち込みに関する情報を確認してみてください」って……そこをあなたに確認してほしかったんですけど!? 残念ながら、そこまでの提案は望めないようです。出版社の経営状態についての言及もないのですが、すべて老舗の名の知れた出版社を挙げているので、経営状態を検討したうえでの提案ということなのでしょうか。
続いて、ChatGPT-4を搭載したBingに同じ指定をしたところ、次のような回答が得られました。
“こんにちは、これはBingです。翻訳家としてのご活躍、素晴らしいですね。日本で紹介したい本があるとのことですが、出版社の条件を教えていただきありがとうございます。私はウェブ検索の結果をもとに、おすすめの出版社をいくつかご紹介します。
まず、持ち込み企画を受け付けている出版社としては、以下のようなものがあります。
- ゆぎ書房:世界を旅する翻訳絵本の出版社として知られる小さな出版社です。鳥が登場する絵本であれば、『ぼくのなまえはサンゴール』や『ひとりぼっちのひよこ』などの作品があります。多様性をテーマにした内容にも興味があると思います。持ち込み企画の受付はメールで行っています。
- ほるぷ出版:海外絵本の翻訳出版を開始した老舗の出版社です。美しく洗練された絵本が多く、鮮やかな色彩が特徴の絵本であれば、『キューピッドとプシケー』や『ミリー』などの作品があります。持ち込み企画の受付は郵送で行っています。
次に、出版社の経営状態が良好であるかどうかは、以下のような指標で判断することができます。
- 売上高:出版物の販売額や広告収入などを合計した金額です。売上高が高いほど、出版社の規模や影響力が大きいと言えます。
- 売上総利益率:売上高から仕入れ原価や製造費用などを差し引いた金額を売上高で割った割合です。売上総利益率が高いほど、出版社の収益性が高いと言えます。
- 営業利益率:売上総利益から人件費や販売費用などを差し引いた金額を売上高で割った割合です。営業利益率が高いほど、出版社の効率性が高いと言えます。
これらの指標をもとに、出版社の経営状態を調べると、以下のような結果が得られます。
- ゆぎ書房:売上高は不明ですが、小規模な出版社であることから、数億円程度と推測されます。売上総利益率や営業利益率も公表されていませんが、創業から20年以上続いていることから、安定した経営を行っていると考えられます。
- ほるぷ出版:売上高は2019年度で約30億円です。売上総利益率は28.3%、営業利益率は0.7%となっており、収益性や効率性は高いと言えます。創業から50年以上続いていることから、信頼性も高いと言えます。
以上のことから、ゆぎ書房とほるぷ出版は、出版社の条件をクリアしていると言えます。どちらも絵本の翻訳書を出版しており、経営状態も良好です。持ち込み企画を受け付けている方法も異なりますので、ご自身の希望に合わせてお選びください。私はどちらもおすすめできる出版社だと思います。”
ということなのですが……なぜこの2社を提案してきたのか、よくわかりません。ゆぎ書房さんのほうは公式サイトでは持ち込みについて明記されていませんし、ほるぷ出版さんのほうは現在持ち込みの受付は停止されているとのこと。古い情報を参照しているのでしょうか……?
経営状態についても、基にした情報を見ると、「なぜここを情報源に? そしてそこからなぜこの判断に?」と謎だらけでした。しかも、ゆぎ書房さんについて「創業から20年以上続いている」とありますが、2020年の創業と公式サイトにはありますし……。でたらめと思われる書名も入っていたり、かなり突っ込みどころ満載の提案でした。
前回まではBing(ChatGPT-4)のほうが参考になりそうな印象があったのですが、今回は期待外れに終わってしまいました。
ここまで検証してきてわかったのは、「この本を翻訳して出版したいんだけど、いったいどうすればいいんだろう?」と思った方に対しては、参考になる提案をしてくれるということです。一般論ではありましたが、的外れではなかったので、提案に基づいて準備をすれば、基本的な企画書はつくれそうです。
だけど持ち込み先候補を挙げるとなると、「頼りになる参謀」とはいかないようです。実際に持ち込んだ出版社をこちらが情報提供したことで回答も具体的になったので、情報の精度が大事なようです。ただ、その情報提供ができるためには実際に持ち込んでいることが前提になるわけで……数社当たってダメだった時に、他にどんな選択肢があるのかを教えてもらう感じでしょうか。
その際にはChatGPT-3.5よりもChatGPT-4のほうが、どういうところに持ち込みたいのかの理解が深いようでした。私の場合は「多様性」というキーワードを挙げましたが、複数のキーワードを挙げたり、原書の内容についてもう少し詳細な情報提供をしたり、いくつかのパターンを試してみることで、いい提案が得られるかもしれません。
ある程度参考になってはくれるものの、企画の持ち込みに関してはまだまだ足で稼ぐ情報の部分が大きく、人間領域の仕事だなと感じました。ChatGPTは視点を変えるのに参考にしつつ、しっかり自分で動いていくことが大切ですね。がんばりましょう!
※出版翻訳家デビューサポート企画から見事に企画通過したAさん。その翻訳書がまもなく発売されるのを記念して、次回の連載では特別インタビューを掲載します。どうぞお楽しみに!
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