第244回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート51
出版翻訳家デビューサポート企画レポートをお届けします。今回登場するのは、社会派の長編小説を手がけるKさんです。
C社の海外文学の担当編集者さんからのご連絡を待っていたKさんですが、1か月待っても何のご連絡もありませんでした。そこでご検討状況をお尋ねするメールを送ってみたものの、それにも2週間近くお返事がなかったそうです。これでは次に進めないと思い、お返事をいただけなかったので他社に持ち込みたい旨をお伝えしました。最初の反応がよかっただけにがっかりしつつも、気を取り直して次に向かうことにします。
ある時、お仕事の関係でたまたま著作権エージェントの方とお会いする機会がありました。ひと通りお仕事の話をした後、雑談のなかで、実は自分も翻訳家で、温めている企画があることをお伝えしてみました。すると、基本的には対出版社としか仕事はしないけれど、それほど分量が多くなければ読んでもいいとお返事をいただけたのです。
まだ1回しかお会いしていませんし、社内でどのようなポジションにいらっしゃる方かもよくわかりません。これは先方の単なる社交辞令と解釈すべきなのか、Kさんは悩みました。真に受けて本当に企画書を送っても、見てもらえないか、下手をすると企画だけ持っていかれてしまうのでは……。でも、うまくすれば、このエージェントの方がご興味を持って、版権の空き状況を調べてくれるかもしれません。さらに、どこかの出版社に売り込んで、翻訳家候補としてご紹介いただけるかもしれません。
悩むKさんに、せっかくの機会なので送ってみることをおすすめしました。たしかに、企画だけ持っていかれてしまうこともまったくないとは言い切れません。だけど、そういうことをすれば翻訳家の間で悪評が立つことは先方にも予測がつくでしょう。もともとお仕事の関係でお会いした方ですから、仕事上で関係のある相手に対して、裏切るような態度はとれないはずです。
もし心配であれば、そのことを先方にお伝えしてみるのも一手です。自分が大切に温めてきた企画であることや、絶対に自分が手がけたいことなどをお伝えしたうえで、大丈夫そうならお送りしてみるのです。お話する機会があるようなら、「企画だけ持って行っちゃったりしないですよね?」と冗談っぽく訊いてみることもできるでしょう。
あるいは、2段階に分けてのアプローチも考えられます、たとえば、まず第1段階では翻訳家としての実績を示す意味で最近手がけた作品を先方にお送りします。その際に「この間の件、本当にお願いしてもいいですか?」と確認して、ある程度やり取りをしてもう少し状況を探ってから、第2段階で企画書をお送りするのです。それなら先方のご様子も多少わかってくるでしょうし、もしかしたら先方も当初は社交辞令だったのが、実際に動く気になってくださるかもしれません。
アドバイスを受けて、Kさんはアプローチを考えることにしました。実は、Kさんにはもうひとつの企画がありました。小説とはまた違うジャンルの本で、2年ほど前に企画書をつくって眠ったままになっていたのです。こちらの企画を様子見で先に出してみるのはどうかとのこと。ただ、これでお断りだと、当初の企画が出しづらくなってしまいます。
この企画についてお話を伺ってみると……次回に続きます!
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