第242回 翻訳絵本の持ち込みプロセスを公開します⑦
持ち込み企画に対して、L社の社長さんからはすぐにお返事があり……お断りでした。
すでに多数の刊行予定があり、かなり先まで埋まっているため、ひとり出版社としてこれ以上企画を抱えるのが物理的に難しいという理由です。企画の良し悪しということとは別に、会社の状況として断らざるを得ないとのことでした。
準備に手間暇がかかった分がっくり来ますが、すぐに断ってくれたことに誠意を感じました。「すぐに断るのは申し訳ないから」としばらく預かる場合もあるのでしょうが、そうするとこちらは次に進めなくなってしまいます。一見すると無慈悲なようでも、むしろこちらのためを思っての対応なのだと理解できました。
お断りでも、実はうれしかったことがひとつあります。それは、「読みもの」として仕上げたお手紙を楽しく読んでくださったそうで、「版元攻略法としてなかなかお見事と思いました」と書いてくださっていたことです。
つまり、これまでとは違う出版社に持ち込むにあたって、試行錯誤した結果選んだアプローチは、正解だったということ。
これで、さらに自信を深めることができました。
「え? そんなに断られ続けているのに、なんで自信を深めるの?」と思うかもしれませんが、持ち込みって、仮説検証を繰り返していくようなものだと思うのです。
K社までの11社への持ち込みでは、企画書や絵本に対するフィードバックをいただき、「日本で出すべき作品だ」と絵本自体への自信をまずは持つことができました。さらに、L社への持ち込みによって、出版社へのアプローチもこうすればしっかり相手に届くとわかったのです。それなら、この道を進んでいけば出版にたどり着けるはず。
そこで、次に選んだのはM社です。以前に誕生日プレゼントに友人からM社刊行の写真集をもらったことがあり、気に入って飾っていました。それ以来M社のことは「写真集を刊行している出版社」と認識して、書店でもよく見かけていました。絵本のことは頭になかったのですが、調べてみると翻訳絵本も刊行しています。
作品を読んでみると、通好みでありながらも一般向けに訴求力を持ったもので、とても好きになりました。そこでM社についてあらためて調べてみたところ、クリエイター色の強い出版社だと感じました。絵本や児童書がメインの出版社とは、視点も違うでしょう。ただ、私の企画の場合は、原書の色彩が大きな魅力のひとつなので、クリエイター色の強いところで高く評価していただけるのではと思いました。
さらに、社長さんのインタビュー記事を拝読すると、なかなか珍しいご経歴の方でした。そしてそのことが現在のお仕事にプラスに働いているご様子。これは私の選んだ原書のテーマにも通じることなので、もしかしたら、ご自身のことと重ね合わせて考えてくださるかもしれません。
これまでの経緯を「読みもの」としてお手紙にまとめ、著作類とともに、企画書を社長さんに直接お送りしました。すると、すぐにお返事がありました。社長さんだけでは責任を持って担当することができないため、編集部のほうで検討してくださるとのこと。
というわけで、お預かりいただくこととなりました。それが3か月ちょっと前のことです。お時間がかかるということだったので、まだしばらくは待ってみるつもりです。
自著の絵本のほうは、これまでに経験したことがないようなハイペースで進んでいるので、もしかしたらお返事をいただくよりもそちらが完成するほうが早いかもしれません。そうしたら、それをお送りしてリマインドできるかも、などと考えています。また進展があったら、レポートしていきますね!
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