第241回 翻訳絵本の持ち込みプロセスを公開します⑥
11社目のお断りを受けて、大きくアプローチを変えることにしました。これまでは絵本の出版実績があることを重視していましたが、視点を変えました。予算に余裕があって、新しいことに取り組む冒険心があることを重視して、出版社を探すことにしたのです。
そこで思い浮かんだのがL社です。L社はインパクトのある取り組みを数多くしていて、おもしろそうな出版社だと以前から思っていました。とはいえ絵本にも翻訳書にもまったく関係はなさそうですので、持ち込み先として考えたことはありませんでした。だけどそのジャンルの出版実績という制約を外して考えたら、可能性が見えてきました。
L社の社長さんとは、以前にやり取りをさせていただいたことがあります。ひとり出版社で社長さん自ら編集も営業もすべて担当されていることもあり、すごくフットワークが軽い印象がありました。
ひとり出版社なら、社長さんがやりたいと思ってくれれば企画が通るでしょうし、お返事も早いでしょう。L社の社長さんは興味の幅が広そうなので、普段手がけるジャンルと畑違いの私の企画にも、興味を持っていただける可能性があります。
L社はベストセラーを多く刊行していて、予算の面でも余裕がありそうですから、予算を理由に断られることもないでしょう。
ただ、問題があるとすれば、持ち込み企画が多そうなことです。L社から出版したい方たちの企画書や原稿が、日々大量に届いているのではと思われました。L社の社長さんはおもしろそうなものへのアンテナをいつも立てていそうですから、大量に届いても、一つひとつ目を通してくれるはず。でも数が多い分、検討時間も短いでしょうから、つかみが強くないといけません。
著書であればすぐに出版に向けて動き出せるのに対し、翻訳書は版権の問題など、手間がかかることが多く、不利になってしまいます。そのハンデを払拭できて、多くの持ち込み企画の中から目を留めていただけるようなインパクトが必要です。
そこで私が考えたのが、企画書に添えるお手紙を「読みもの」として完成度の高いものにすることでした。ただ「企画書をお送りします。読んでください」というだけでは意味がないので、どうしてL社にお送りしているのかということだけでなく、これまで数多くの出版社にお断りされてきたことも書きました。社長さんのインタビュー記事などから、「この話題にはご関心があるはず」という話題を拾い、私の経験談を交え、「なんだ、なんだ!?」と思わず読んでしまう内容に仕立てたのです。
さらに、フォーマットも考えました。L社のヒットシリーズのフォーマットを真似て、文字数や行数、注の入れ方などの体裁を揃えることで、一目見て「あ、これはうちのシリーズの……!」と気づいていただけるようにしたのです。
企画書や原稿、熱い思いのこもったお手紙を送る方は多いかもしれませんが、ここまでする方はいないはず。そう見込んで、L社の社長さん宛てにこの「読みもの」と企画書をお送りしました。
すると、すぐにお返事があり……次回に続きます!
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