第240回 翻訳絵本の持ち込みプロセスを公開します⑤
10社目のお断りでがっくり来たものの、絵本への評価に自信を得て、次の持ち込み先を探しました。
次に選んだのは、K社です。絵本は普段からよく読んでいて、その頃読んで気に入った作品がK社から出版されていたのです。専門書を主に刊行している出版社のイメージがあったので、絵本を出していることは意外でしたが、調べてみると多数刊行されていました。ただ、翻訳絵本は見当たりません。扱っていただけるかわからないものの、アプローチしてみることにしました。
K社には、知人の編集者さんがいました。普段から交流があるわけではなく、面識がある程度なのですが、信頼できる編集者さんという印象がありました。というのは、本をお互いに紹介する会で何度かご一緒していて、その方が紹介する本を読んでみたところ、深い思考をうながし、気づきを与えてくれる作品ばかりだったのです。その選書眼から、普段読んでいるであろう本の質の高さやその方自身の思考の深さもうかがわれ、「この方なら企画をきちんと検討してくださるのでは?」と感じたのです。
そこで、持ち込みたい企画がある旨をメールしてみました。すると、K社の児童書編集部では原稿の持ち込みは一律に受けつけていないとのこと……。でも、その編集者さんが児童書編集部の方に私の企画書や試訳をお見せして、正式な判断を仰ぐことはできるというのです。
早速、企画書と試訳をつけた絵本をお送りしました。2週間ほどでお返事がありましたが、結果はお断りでした……。理由としては、K社は出版翻訳事業から十数年以上離れてしまっていて、予算、ノウハウともに持ち合わせていないので、適切な助言ができないためとのことです。
結果は残念でしたが、児童書編集長さんも、本書のメッセージや色彩世界は素晴らしく、こどもたちに広い世界を見せてあげられる絵本だと言ってくださったそうです。また、窓口になってくださった編集者さんも、とても鮮やかで魅力的な絵本だとのご感想をくださいました。絵柄の魅力をお伝えしたくてコピーではなく原書をお送りしたのですが、「たしかにコピーでは、この美しさは再現できない」と共感していただけました。
11社目のお断りを受けて、落ち込むよりもむしろ自信を深めました。J社の出版部長さんに続き、K社の児童書編集長さんや編集者さんといった目利きの方たちに絵本の魅力を認めていただけたことで、「これはやっぱり世に出すべき本だ」と思うことができたのです。
とはいえ、せっかく魅力があって気に入っていただけても、営業部門の反対など、内部の問題で躓いてしまうようではなかなか先に進めません。絵本を扱っている出版社は刊行点数が限られていることも多いですし、予算の面でも制約があります。
旬の短い作品ではないので、たとえば10年後や20年後でも十分鑑賞に堪えると思えるため、時間的な焦りはありません。また、断られてもまだまだ持ち込みを続ける精神力もあります。
ただ、これまでの延長線上では難しいのではないかと思いました。もっと大きくアプローチを変えなければいけないのでは?
そこで私が考えたのは……次回に続きます!
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