第239回 翻訳絵本の持ち込みプロセスを公開します④
お問い合わせ欄からのご連絡に、J社の編集者さんからお返事がありました。日本人作家による絵本出版に力を入れていく方針のため、現在は翻訳絵本企画の持ち込みは受け付けていないそうです……。
肩を落としかけましたが、なんと! 読書療法に関連する絵本であれば話を聞いてみたいというのです。
「読書によって心が晴れやかになった」「前向きな自分を取り戻せた」という読者の声をいただくことが多くあったそうで、編集者さんご自身が読書療法に興味を持ってくださったのでした。
そこで日程調整をし、J社にお伺いすることになりました。メールでのていねいで腰の低いご対応から若手編集者さんかと思いきや、J社の出版部長さんでした。
お話を伺うと、読書療法へのご関心から例外的にご対応いただけたことがわかりました。メディア掲載にも目を留めていただけたようで、そのように実績をまとめておくことも大切だなと感じました。
実際に試訳をつけた絵本をお見せすると大変気に入ってくださり、印象的な絵柄に魅せられたご様子でした。企画を預かりたいからと別室で絵本のコピーを取ってきてくださったのですが、その際に他の編集者さんからも「きれいな絵本ですね」と声をかけられたそうです。本自体の魅力を認めていただけてうれしくなりました。
懸念事項としては、翻訳絵本の売れ行きが良くないため、営業のほうから反対があるかもしれないとのこと。J社では企画会議で検討するため、たとえ出版部長さんといえども、一存で決められるわけではないのです。
これに対しては、私も各方面にPRをすることや、本書が読書療法にも沿う作品のため、その観点からも今後長く紹介していけることをお伝えしました。
企画会議は毎月開催されていて、1月の会議はすでに終了していたため、2月の会議にかけていただくこととなりました。懸念事項はあるものの、これだけ出版部長さんが気に入ってくださっていたら、企画通過の可能性が高いはず。「10社目にしてようやく……!」と思いが高まります。
2月末になっても音沙汰がなかったので、3月になった時点でこちらからご連絡を差し上げると、検討が必要な企画が重なってしまい、3月の会議に回っているとのこと。でも個人的にはとても気に入っているので、ぜひ企画を実現したいと考えているというお話でした。
そこで3月の会議の結果を待っていましたが、残念ながら企画通過とはなりませんでした。すでに企画が通って刊行予定の翻訳絵本企画が5冊ほどあり、翻訳絵本がこれまであまり収益をあげられていないために、新しいコンテンツを増やすことに営業部が難色を示したからです。出版部長さんも、なんとか企画を通せないかとがんばってくださったそうですが、かないませんでした。
正直なところ、「今回はいける!」という期待が大きかっただけに、かなりがっくり来ました。何しろ、10社目ですし(笑)。とはいえ、絵本自体を評価していただけたことは自信につながりました。これまではA社以外は企画書のみでの判断でしたので、絵本へのフィードバックをいただくことができなかったのです。実際にご覧いただいて、出版部長さんのように多くの絵本を手がけてこられた方から高く評価していただけたことは力になりました。
というわけで、めげずに次へ! 次に選んだのは……次回に続きます!
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