第234回 流れに乗るということ
唐突ですが……私、絵本を書くことになりました。
絵を描く方とのコラボで、私は文章を担当します。
絵本の翻訳ならともかく、絵本を書くことになるとはつい最近まで思ってもみなかったのですが……この経緯は「仕事の取り方」という点でご参考になると思ったので、お伝えしていきますね。
そもそもこの仕事を知ったきっかけは、ネット上で募集を目にしたことでした。知人の絵本作家さんが、「文章を書けて、こういう分野に詳しい方を探しています」と募集していたのです。
「この要件って、私にぴったりなのでは?」と思って内容を見てみると、コラボで絵本をつくるお仕事でした。出版することは確定済み、しかも5冊シリーズで刊行予定とのこと。出版不況と言われる中、何とも恵まれた条件のお話です。
興味がある旨をお伝えしたところ、すでに数名の応募があり、最終的には出版社が決めるので少し待ってほしいと言われました。たまたま見かけて応募しただけですので、断られても何も失うものはありません。気楽に待っていたら、翌々日には「お願いします」というご連絡があったのです。
「え? こんなにあっさり決まっていいの?」
というのが正直な感想でした。絵本の出版翻訳の時には決まるまでに長い時間がかかったのに、こんなスピード感で決まるとは驚きです。
もちろん、応募しなければ依頼されることもないわけですし、そこには仕事の取り方について出版翻訳にも応用していただける考え方がありました。
まずは、「自分には無理」と思わなかったこと。文章を書いてきたとはいえ、絵本を書いたことはありません。だけど、そこで「経験がないから無理」とは思わなかったのです。「書いたことはないけれど、絵本は数百冊は読んでいるはず。だったら一冊くらいは書けるよね?」と思ったのです。
これは、もしかしたら「読めるから翻訳できるはず」と思ってしまうのと似ているのかもしれません。読めるのと翻訳できるのはまったく別物なので、実際に翻訳を始めてから「こ、こんなはずでは……!」と愕然とするものです。それでいくと私も、絵本を書き始めてから愕然とするのかもしれませんが……それはその時に何とかすることにしましょう。
また、以前に絵本の翻訳企画を持ち込んだ出版社の方から、「自分で書いてみては?」と言われたことも影響していたと思います。それまでは絵本には翻訳で関わることしか頭にありませんでしたが、「そういう可能性もあるのか」と、扉が開いたように感じたのです。
さらに、「仕事は片手で受ける」という話を聞いていたこともあります。両手で抱えていっぱいいっぱいになってしまうのではなく、常に片手を空けておいて、おもしろそうな話があった時にすぐに受けられるようにしておくほうがいい、という話です。
私はわりと生真面目にガチガチに捉えてしまうことも多いのですが、「何をどう仕事にするか」「どんなふうに仕事をするか」ということを最近あらためて考えていました。もっと仕事に対するスタンスを変えてみてもいいのではと思うようになっていたのです。そんな流れの中で、この募集を知ったのでした。
募集をされていた絵本作家さんとは、10年ほど前に一度お会いしただけです。普段交流があるわけでもないのですが、少し前に共通の知人の連絡先を知りたいとメールをいただき、やり取りをする機会がありました。それで応募が目に入ってくることにもつながったので、この流れに乗ってみようと思ったのです。
絵本を書くことで、絵本が誕生するプロセスを経験することは、翻訳や企画の持ち込みにも活かせると考えています。出版業界の中でもジャンルによって別の業界のように分かれているものですが、絵本の仕事をすることで、このジャンルでの知人も増やせるかと期待しています。
はたして、どんな学びがあるでしょうか……? 出版翻訳に活かせそうなことを見つけて、またお伝えしていきますね。
※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。
※出版翻訳に関する個別のご相談はコンサルティングで対応しています。