第222回 4年越しの企画がついに実現!②
持ち込みを始めるとともに、本を出しやすくする環境をつくろうと動いていた私。ところが、コロナ禍になって大きく事情が変わってしまいました。介護現場は深刻な影響を受け、最低限のサービスを提供するだけでも精一杯という状況になってしまったのです。
もともとここ数年は、人手不足などもあり、介護現場の状況がどんどんきびしくなっていました。その人らしい生活を実現するために真摯に取り組む介護職員にとって難しい環境になっていたのが、コロナがさらに追い打ちをかけてしまったのです。倒産する小規模事業者も相次ぎ、認知症と性という問題を考えるような余力はとてもないように思われました。
また、施設研修やセミナーの開催もできなくなってしまいました。介護業界では、「セミナーを開催して、その会場で書籍販売をする」というのがよくある販売モデルだったのです。私も、翻訳を手がけた本の内容について全国各地で研修やセミナーをさせていただき、その場で参加者にお求めいただくことができました。自分が登壇しない場合でも、連日何かしらのセミナーが開催され、そこで書籍販売があるので、読者の目に触れる機会が多くありました。それが開催できなくなり、大きな販路がなくなってしまうことになりました。
セミナーはオンラインに移行していきましたが、オンラインではその場で書籍販売をするわけにはいきません。受講後に購入して読んでくださる方もいるでしょうが、リアル開催の場合のように、「今この場で買っていこう」というインセンティブがありません。
大学や専門学校で使用するテキストなら数百冊単位で購入してもらえることが見込めますし、実際、『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと』はそのようにして使用されています。でも、同書のように一般向けの内容ならともかく、認知症と性をテーマにした本がテキストに採用されるのは難しいように思われました。
販路があれば売り上げが見込めるので企画も通りやすくなるのですが、販路が見つかりません。コロナ禍が続き、この状況が改善する兆しもありませんでした。
そんな状況が続く一方、私はといえば、この連載をまとめた『翻訳家になるための7つのステップ』の出版が決まり、そちらに集中することになりました。出版後もまたあまり間を置かずに『心と体がラクになる読書セラピー』の出版が決まり、『古典の効能』も……と自著の出版が続きました。本を出す時は物理的にもかかりきりになりますし、精神的にも余裕がないので、他のことに手が回らなくなってしまいます。翻訳の持ち込みは心身ともにエネルギーがいるため、なかなか企画を進められずにいました。
そんな中でも、以前から認知症ケア関連のお仕事をご一緒してきた編集プロダクションのAさんと連絡を取りあいながら、どうやって進めていくのがいいだろうかと相談はしていました。ちょうどAさんが知り合った編集者Bさんが人権問題を扱う出版社の方だったので、人権問題という切り口からも企画を考えてみました。AさんがBさんに打診してくださり、しばらく検討していただきましたが、最終的にはお断りでした。ある程度の部数を買い取るなどの条件がない限り、翻訳書は難しいということでした。
一連の自著の出版とその後のPRなどがひと息ついたところで、去年の春頃からふたたび本腰を入れて出版社探しに乗り出しました。友人の編集者Cさんと、Aさんも交えて会う機会があり、その際にCさんに相談してみました。Cさんがお仕事をしている出版社には候補が思い当たらないものの、以前に在籍していた出版社に知人がいるので、そちらに打診してくれることになりました。そこの出版社で扱うにはマニアックなテーマなので難しいかとは思いましたが、やり方によっては可能性もあるかもしれないと考え、Cさんに企画をお預けしました。
結果はやはりお断りでしたが、その際にいただいたコメントに大きなヒントがありました。それは……次回に続きます!
※「絵本翻訳家になるための7つのステップ」の講座にご参加いただいたみなさま、ありがとうございました! 読者の方々にお会いできてうれしかったです。またこのような機会がある際にはご案内いたしますね。
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