第218回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㊹
今回登場するのは、学術書を選んだSさんです。Sさんの試訳を拝見したうえでフィードバックをし、表記の見直しと状況整理をしていただきました。その結果、ぐんと読みやすくなりました。
Sさんは、残りの翻訳も進めていました。そちらを拝見すると、表記や表現を見直してほしい部分がありました。その修正をしていただく一方で、持ち込みについても具体化していくことになりました。
Sさんの原書の内容に近い研究活動を日本でしている著者Aさんにコンタクトをとり、Aさんから出版社を紹介していただくのがいいように感じました。著作の内容に通じるものがあるので、出版社も関心を持つはずです。直接の持ち込みより、Aさんを通すほうが確実に検討していただけるでしょう。
SさんもAさんの活動を以前からフォローしているため、直接コンタクトをとるという選択肢もあります。内容に目を留めていただける可能性は高いものの、「これを読んでふさわしい出版社を紹介してほしい」というのは、やはり唐突なお願いになってしまいます。Aさんが翻訳家で、講座を主催しているような方なら話は別で、そういう申し出への対応も慣れているでしょう。だけどAさんの場合は著者なので、驚かれてしまう可能性もあります。
私が紹介できればいいのですが、Aさんとは数年前に一度名刺交換をしただけなので、Sさんが直接コンタクトをとるのとそれほど変わりません。でも幸いなことに、長いお付き合いのある編集者さんがAさんとも交流があるので、編集者さんを通してお願いすることにしました。
そこで、まずはSさんを編集者さんにお引き合わせするべく、3人でのZOOMミーティングをしました。Sさんからお預かりした企画書や試訳を私から編集者さんに送って依頼してもいいのですが、編集者さんからさらにAさんにつないでいただくためには、きちんとお引き合わせしたほうがいいと思ったのです。そのほうがSさんの企画にかける思いや熱量も直接伝えることができるからです。
それだけではなく、実際にお話をすることで、Sさんのお人柄も伝わります。紹介にあたっては、「仕事を任せて大丈夫な人かどうか」ということが大切な判断基準になってきます。いくら翻訳がよくできても、約束事をきちんと守れなかったり、人として傲慢だったりすると、仕事をする場面で問題が生じてくるものです。その点、Sさんの真面目さや真摯な姿勢は、「しっかり最後まで責任感を持ってやり遂げてくれるだろう」という安心感を与えられると思います。
実は、前回Sさんのレポートを掲載した際、Sさんからは「この私の未熟さ加減もどなたかの参考に少しでもなれば……という気持ちです」というメールをいただきました。そんな謙虚さを持って物事にあたれる人間性がSさんの大きな強みだと思いますし、応援してくれる方にも恵まれることでしょう。
さて、ZOOMミーティングでの編集者さんのお話によると、Aさんは現在とても多忙のため、お仕事のオファーはほとんど断っているとのこと。それでも内容に興味を持っていただける可能性はあるので、依頼してみましょうということになりました。
仮に引き受けていただけたとしても、企画書や試訳に目を通し、出版社に話をつなぐのは、Aさんにもご負担をかけることになります。そこで、序文や帯を書くなど、何かAさんのお仕事にもつながる形で依頼することを私から提案しました。それならAさんにも一方的にご負担をかける形にはなりませんし、Sさんにとっても、Aさんを通して翻訳書が紹介されることで、想定していた読者層に届くことになるからです。
その方向で話がまとまり、まずはSさんに企画書と修正済みの試訳の他、Aさんへのメッセージをご用意いただくことになりました。準備ができたところで、編集者さんからAさんにつないでいただきます。
また追って経過をレポートしますね。
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