第217回 フォーマットを意識する
今月から佐賀新聞で「心と体がラクになる読書セラピー」という、拙著と同じタイトルの連載が始まります。はじめての新聞連載でとりわけ新鮮に感じるのは、新聞のフォーマットです。新聞の紙面は、1行が12字。とても短いのです。
同じ内容でも、フォーマットによって読者に与える印象はかなり変わります。1行が40字ほどあれば、ある程度の長さの文章でも、見た目にはそれほど長く感じません。それが12字だと、長い段落になってしまいます。黒々とした字面になり、圧迫感が出てしまうのです。そこで改行を増やし、余白がところどころできるように字面を調整します。
このように、どういうフォーマットで記すかによって、文章のあり方も変わってきます。以前、あるメルマガの内容が心に響き、その文章を日記に書き写してみて、印象の違いに驚いたことがあります。メルマガとしてPCの画面で読んでいた時は気づかなかったのに、その文章を書き写してみると、ものすごく冗長だったのです。
メルマガでは頻繁に改行があり、余白も大きいフォーマットになっています。一度に目にする分量が少ないので、文章全体にあまり注意が向きません。ところが、全体を読んでみると、半分に削れるくらいに余計な言い回しが多かったのです。
出版翻訳家を目指す方であれば、もともと本好きだったり、勉強のために本を読むようにしていたり、本に触れる機会は一般の方より多いはずです。それでも日常では、PCやスマホの画面で文章を読む場面のほうが多いのではないでしょうか。すると、知らず知らずのうちに、そのフォーマットになじんでしまいます。結果的に本として読んだ時に心地よいフォーマットからずれてしまう可能性があるので、自分が接しているものに意識的になることが大切です。
フォーマットに意識を向けられるようになると、もっと細かい部分にも目を向けられるようになります。たとえば、自己啓発書と文芸小説では、同じ本でもまったく雰囲気が違いますよね。装幀などによるところも大きいですが、文章だけをとっても、やはり違います。その違いを構成するのは、一つひとつの言葉の選び方や句読点の打ち方などの細かい部分です。
自分が手がけたい作品があった時に、そのジャンルの文体で翻訳できるかどうかによって、完成度が変わってきます。すでに好きなジャンルがあって、そのジャンルの作品を多く読んできている方の場合、自覚していなくても身体に文体が浸透しているものです。だから、翻訳に自然とにじみ出てきます。
「一応翻訳はできるのだけれど、なんだかそれらしい雰囲気が醸し出せない……」という方は、とにかくまずは大量に読むことをおすすめします。読んで身体になじませていくのです。
もうひとつは、書き写してみることです。実際に自分の手を使って書き写してみると、読んでいるだけでは気づかないところが見えてきます。たとえば「私」「わたし」と同じ言葉でも漢字表記なのか、ひらがな表記なのか。文章にどれくらい句読点を入れているのか。1文の長さはどれくらいか。文章の緩急はどのようにつけているのか……そのように文章を分析して捉えられるようになるのです。書き写した後に自分の翻訳を見直してみると、分析的な視点が活かせるはずですよ。伸び悩んでいる方は、ぜひ試してみてくださいね。
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