第212回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㊸
出版翻訳家デビューサポート企画レポートをお届けします。今回登場するのは、アーティストの評伝を選んだIさんです。
H社にアプローチしていたIさん。企画書をお渡ししてから1か月ほど経ってもお返事がなかったので、メールを送ってみました。すぐにお返事をいただけましたが、残念ながらご縁はありませんでした。アーティストの魅力や、その人生の面白さを認めていただけたものの、H社では難しいとのこと。美術系の書籍に強い出版社のほうがいいのでは、というアドバイスでした。
そのアドバイスも念頭に置きつつ、Iさんは次の持ち込み先をいくつか検討します。その中で、候補に挙がったのがI社でした。同社の営業担当者さんの文章を読む機会があり、「こんな素敵な方に営業していただけたら……!」と思ったからです。
そこで、I社のお問い合わせ窓口から編集者さんにアプローチするつもりでいましたが、私はそれよりも、その営業担当者さんに直接アプローチすることを提案しました。Iさんが心を動かされたのは営業担当者さんなので、そのことを直接ご本人にお伝えし、ご本人から編集者さんにつないでいただくほうがいいと思ったのです。Iさんのお気持ちをていねいにお伝えすれば、きちんと検討していただけるのではないかと考えました。
さらに、アプローチする際にはお問い合わせ窓口からではなく、プレゼントのようにして郵送することをおすすめしました。私自身も、思い入れのある方にはじめてコンタクトする際にはこの方法をとります。郵送のほうがていねいですし、手軽な手段でコンタクトをする方が多い中、まずそこで目を留めていただけるからです。とはいえ多くの郵便物を受け取る方だとその中で埋もれてしまいかねませんので、プレゼントのようにデコレーションすることで、興味を持って開封していただけるようにします。
Iさんは画材屋さんを何軒もまわって紙を選び、オリジナルの封筒を手作りしました。カッターで切って、のりづけして、そして手書きのお手紙も添えて……「学生時代のバレンタインより真剣だったかも(笑)」という、気持ちのこもった仕上がりになりました。
文面を考えるのは、とても悩ましかったとのこと。営業担当者さんの熱いお仕事ぶりを知っているだけに、生半可な気持ちでぶつかっていくのは失礼なのではないかと逡巡したそうです。Iさんご自身が、企画への思いを再確認する機会になったのではないでしょうか。
しばらく反応がなかったので、「ご迷惑だったかな……」とIさんが後悔し始めた矢先、営業担当者の方からメールが届きました。お送りした企画書をご覧いただけたのです。そして、出版の可否はわからないけれど、ひとまず編集者さんに相談してくださるとのことでした。
とてもあたたかい文面に、Iさんは感激したそうです。お仕事ぶりを知って「素敵だな」と思った方に、こうして気持ちが通じると、うれしいものですよね。「同じ仕事をするにしても、できればこういう方とチームを組みたいな」とあらためて思ったとのこと。また、「自分もそう思っていただけるようにがんばります」というIさん。そんな姿勢が、素敵な仕事仲間を引き寄せていくように感じます。
また進展があり次第、レポートしていきますね!
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