TRANSLATION

第211回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㊷

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

出版翻訳家デビューサポート企画レポートをお届けします。今回登場するのは、社会派の長編小説を手がけるKさんです。

A社からのお断りの後、知人を通して関連団体にアプローチするつもりでいたKさんですが、その方がかなりご高齢であることや、それほど近しい関係ではなかったこともあり、なんとなく踏み出せずにいました。そこで、知人への連絡は最後の手段に取っておくことにして、B社に持ち込むことにします。

B社に伝手はなく、公式サイトのお問い合わせ窓口からアプローチしたものの、お返事はいただけませんでした。次に、C社にアプローチすると、すぐに海外文学の担当編集者さんから直接お返事があり、ご興味を示してくれました。早速企画書をお送りして、お返事を待っているそうです。

Kさんは、日頃から新聞等の書評欄をチェックして、ご自身の選んだ原書と似たようなテーマの本が紹介されているのを見つけると、どんな出版社から出ているのかを調べていました。その中から、B社とC社を選んだそうです。

書評欄をチェックするのは、とても手堅いアプローチだと思います。店頭で実際に類書を手に取ってみるのも、五感に訴えるものを実感できるので大切なのですが、書評にはまた別のメリットがあります。それは、書評によってその本のエッセンスが掬い取られていることです。そのため、自分の選んだ原書と通じるものがあるかどうか、見極めやすいのです。

応用編としては、その書評の書き手の著作を刊行している出版社もチェックするといいでしょう。書き手は書評家の場合もあれば、小説家や学者など様々でしょうが、著作があるはずです。自分が嫌いな本の書評は普通は書かないものですし、その本を選んだ時点で、書き手の趣味嗜好が反映されているはずです。だから、書評で取り上げられた本にピンと来たなら、その書評の書き手とも通じ合うものがあるはずなのです。著作がどの出版社から出ているか、持ち込み先の候補として、ぜひチェックしてみてくださいね。

実は、KさんはC社にアプローチする前に、しばらく持ち込みをお休みしていました。翻訳のお仕事で多忙になっていたためです。Kさんはすでに3冊の翻訳書を出版されていますが、いずれも翻訳エージェントに勤めていた当時に、その会社の中で回ってきたお仕事でした。これからは自分でお仕事をとっていけるようにと努力を続けた結果、お仕事をいただけるようになったのです。持ち込み企画ではありませんが、昨年秋に、そして先月末にも、ご自身のお名前で翻訳書を出版することができたのでした。

フルタイム勤務をしながらの翻訳作業は本当に大変で、泣きそうになっていたとのことですが、着々と前進されているご様子を頼もしく感じました。翻訳家としてお仕事をしていくために転職までされたKさんですが、そうやって大きな枠組みを考えて、一歩一歩物事を進めていくと、ちゃんと結果がついてくるものなのですね。書評欄から持ち込み先を選んだ手堅いアプローチにも、本質的なところをまず捉えるという、Kさんの姿勢が表れているように感じます。

このデビューサポート企画に応募してくださった方々のスタンスはそれぞれで、エネルギッシュに進める方も、どっしり構えていく方も、感覚的なものを活かしていく方もいらっしゃいます。どれが正解というものではないですし、その方に合ったものが、その方にとっての正解なのだと思います。それぞれの個性を拝見しながら、物事の進め方についても学ぶことが多く、勉強させていただいています。

Kさんの企画は、また進展があり次第レポートしていきますね。

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

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『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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