第206回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㊳
出版翻訳家デビューサポート企画レポートをお届けします。今回登場するのは、専門的なメソッドを子ども向けに解説した絵本を選んだ、アメリカ在住のHさんです。
Hさんは慎重に持ち込み先を検討した結果、B社にアプローチすることにしました。
A社からのお断りの際には久々に失恋したかのごとく落ち込み、少々自暴自棄な気持ちにもなったというHさん。感情を扱うお仕事をされているのでメンタルコントロールも得意なはずのHさんですが、そんな方でもかなりのダメージを受けてしまうものなのですね。お返事を待ちに待っていたこともあるでしょうが、思い入れが強い分、反動も大きいのでしょう。
今回のB社からのお返事もお断りのメールではあったものの、前回のように落ち込むことはなく、むしろ編集者さんからの心のこもったお返事にとても励まされたといいます。絵本全体をていねいに検討したうえでお断りの理由を詳細に教えてくれたほか、Hさんの経歴に注目し、オリジナルの絵本をつくることも考えられるのではと提案してくださったそうです。オリジナルであれ翻訳ものであれ、引き続き情報交換をしたいという、うれしいお申し出もありました。
「この本を翻訳したい」という時、「翻訳家として活動していく第一歩にしたい」という場合ももちろんありますが、医師のYさんやHさんのように、「自分の活動に関連した原書を通して、大切だと思うメッセージを伝えたい」という場合も多いでしょう。そういう場合は、翻訳ではなく自分で書くことでメッセージを伝えるために、翻訳書ではなく著書を出すことを選択肢に入れてもいいかもしれません。
特に、文芸の分野で「この本を翻訳したい」という時には、自分でも気づいていない表現欲求があるのかもしれません。持ち込みのプロセスを通じて、編集者さんのフィードバックから、自分の隠れた欲求に気づくこともあるのではないでしょうか。
さて、今回のお断りの理由のひとつは、絵の雰囲気が日本の読者になじみにくいことでした。絵本の場合、日本で受け容れられやすい絵柄というのはたしかにあります。ただ、その範疇にないからダメということはありませんし、エキゾチックな絵柄だからこそ日本の絵本にはない魅力を持つこともあるでしょう。このあたりは出版社によって嗜好がかなり違います。B社の作品を見る限り、選ばれる絵柄はわりと限定されているようでしたので、異なるタイプの絵柄を幅広く扱っている出版社を選ぶのがよさそうです。
お断りのもうひとつの理由は、専門的な技法の知識がないと、内容が読者には十分に理解できないというものでした。この点は、たしかにそうかもしれません。今回のフィードバックを受けて、日本語版ではこの技法についてもう少し詳しい説明を入れるように提案してもいいでしょう。Hさんが解説を書く、あるいはこの分野の著名人に書いてもらうようにするのです。
Hさんにはそのアドバイスをお伝えするとともに、企画に合いそうな出版社の情報を追加でお送りしました。また進捗があり次第、レポートしていきますね。
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