TRANSLATION

第205回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㊲

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

出版翻訳家デビューサポート企画レポートの最新版をお届けします。今回登場するのは、医療現場を舞台にした短編小説集に取り組んでいる現役医師のYさんです。

旧版の復刊になるため、「現在、この本が求められていることを示せる具体的なデータ」がほしいと求められたYさん。だけど旧版の数字は復刊の根拠にするには弱く、「旧版が支持されていたから復刊する」というよりも、「この本が今求められているから復刊する」、つまり「今なら新しく多くの読者を獲得できる」と訴えるほうが説得力があるように思われました。そこで、「背景としての市場の変化」をもっと具体的に示せるような資料を準備するよう、Yさんにアドバイスしました。

Yさんが用意したのは、パワーポイントで20枚以上のスライドでした。本書が必要とされる背景を、医療関係者として得られたデータを駆使して伝えるものです。市場の変化は私も感じていましたが、こうしてデータで示されるとやはり説得力がありますし、社内会議でも他の編集者さんや営業担当者さんを説得しやすいでしょう。時系列で類書の紹介もあり、本書のテーマが人々の普遍的な関心を集めることを出版業界の動きからも伝えています。全体としてわかりやすく、すっきりまとまった資料です。

「え? 翻訳をするためにパワーポイントの資料まで作成しないといけないの?」と思う方もいるかもしれません。もちろん、すべての持ち込みの際に必要になるわけではありませんし、企画書と試訳だけで十分な場合が大半でしょう。だけど編集者さんを説得しなくてはならない場合には、その状況に応じた対応が必要になってきます。Yさんのケースでは、それがパワーポイントの資料を用意することでした。

Yさんの立派なところは、何が必要かを考えて、必要だとわかったらそれに真摯に取り組むところです。「自分は医師だからそういうことはしない」「自分がやりたいのは翻訳だからそれ以外はしない」というのではなく、「自分はこの本を翻訳したい」「そのためには編集者さんを説得することが必要」「説得するためには資料が必要」「それなら資料をつくろう」という具合に、シンプルに向き合えるのですね。

シンプルであるからこそ、余計な迷いがなく、エネルギーロスもないように見受けられます。あれこれ思い悩んで一喜一憂すると、消耗して前に進めなくなってしまうものです。Yさんにはそういうマイナスの要素がないので、淡々と前進していけるのでしょう。

編集者さんからしても、ここまできちんと用意をすればYさんの本気度は伝わるでしょうし、「やると言ったことをちゃんとやってくれる方なんだな」という信頼を得られるのではないでしょうか。

Yさんが資料を完成したのは昨年12月の後半でした。この場合、どの時点で送るかは悩ましいところです。年末で仕事が立て込んでいるかもしれないので年が明けて心機一転、新しいことを始めたい気分の時に送るほうがいいかもしれません。ただ、前回のやりとりから少し間が空いてしまっていたため、年内に送ったほうがいいと考えました。そうすることで、「ご指摘を忘れていませんよ、あの後ずっと考えて動いていたんですよ」ということを具体的な進捗として示せるからです。

Yさんが資料をお送りすると編集者さんからすぐにお返事があり、検討していただけることになりました。

結果がわかり次第、また追ってレポートしていきますね。

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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