第200回 翻訳にかかる時間を把握する
おかげさまで、この連載も第200回を迎えることができました。読んでくださっているみなさま、ありがとうございます。連載開始当初は10回くらいかと思っていたのですが、まさかこんなに続くとは…… (笑)。でも実際、出版翻訳家デビューサポート企画や個人セッションで色々とお話をさせていただくと、「これをお伝えしておかなくては!」と思うことがたくさん出てくるものです。というわけで、今回は翻訳にかかる時間についてお伝えします。
翻訳にどれくらい時間がかかるのかを把握しておくことは大切です。たとえば1章が10ページあったとしたら、それを訳すのに何時間かかったのか、計って記録しておきましょう。ざっと訳すだけなら比較的短時間でできたとしても、それを読みやすい日本語に仕上げたり、用語や背景などを調べたりするのに結構時間がかかっているかもしれません。
冒頭は難しくてもそこを超えれば訳しやすくなる原書もあれば、逆に最初はすらすらと訳せても中盤になって難しくなる原書もあります。そのため実際にかかる時間にはばらつきが出るので単純に掛け算で算出できるわけではありませんが、目安を持っておくことが大事なのです。
なぜなら、企画書を検討していく段階で、どれくらい時間がかかるかを編集者さんに訊かれるからです。あくまでもざっくりとですが、たとえば3ヶ月かかるのか1年かかるのか、知りたいわけです。そこでまったく目安がなければ、実際には1年かかるところを「3ヶ月あればできます」と答えてしまうことになります。そして3か月後にまったくできていなければ、出版スケジュールが狂いますし、結果的に迷惑をかけてしまうことになります。それでは印象も悪いですよね。
時間がかかると答えると「そんなにかかるの? 遅いなあ」と思われるのではと不安になるかもしれません。だけど、できもしない約束をして結局守れずに迷惑をかけるよりは、時間がかかることを最初から伝えておくほうがはるかにいいのです。「余裕をみて半年ほどいただければと思うのですが、この日までに欲しいというご要望があれば、できるだけ添えるようにしますのでご教示ください」というように先方の希望も訊いてみましょう。
著者が来日するのでそれまでに急いで仕上げなければならないなど、特別な事情がない限りは、出版社側とスケジュールを調整することは可能でしょう。また、原書の内容によっても違います。ビジネス書など最新情報を読者に届けるものはペースが速いですが、文芸書や学術書などはもっとゆっくりしています。
だからといって、何年もかけて仕上げていいかというと、そういうわけにはいきません。というのも、出版社は原書の出版社と契約する際、いつまでに翻訳書を出版するか約束しているからです。たとえば2年以内に刊行することになっていた場合、翻訳に時間がかかって刊行できなければ、契約違反になってしまいます。
出版社としては、そんな事態はなんとしても避けたいものです。だから、翻訳をきちんと仕上げてもらえるのかどうか、心配するのは当然でしょう。そんな事情があることを踏まえると、スケジュールを守ることの重要性も理解できますよね。
きちんとスケジュールを守れるように、また、守ってくれる人だという安心感を持ってもらえるように、翻訳にかかる時間はしっかり把握しておきましょう。
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