第198回 出版社を紹介してもらうには?
「企画書も用意できたし試訳も準備したけれど、伝手がないので出版社を紹介してほしい」という方も多いでしょう。そんな時、どうすれば紹介してもらえるのでしょうか?
翻訳学校に通っている方であれば、先生を通じてお願いするのが近道でしょう。第33回の出版翻訳家インタビューで越前敏弥さんは、翻訳の仕事を紹介したり下訳を任せたりする場合の基準として、締切を守れることを第1の条件にあげていました。また、第49回の出版翻訳家インタビューで夏目大さんは、よく一緒にいる人に仕事を頼むと教えてくれました。いずれも、出版社を紹介してもらう場合の判断基準としても参考になるでしょう。
一切紹介しないという翻訳家もいれば、積極的に紹介してくれる翻訳家もいます。紹介することには、上記のインタビューにあるように、自分の信用にも関わってくるのでリスクがあります。また、自分の企画が持ち込みづらくなるなどのデメリットもあるので、そこをどう捉えるかによって方針が違うのでしょう。
私は、努力を続けている方や能力がある方は相応に報われてほしいと思っています。だから、そのために手助けできることがあればしたいという気持ちがあります。本人が何も準備をしていなくてこちらに丸投げではサポートする気になりませんが、がんばっている方には、こちらも何かしたくなるものです。やはり天は自らを助くる者を助くのだと思います。
私自身も今回の出版翻訳家デビューサポート企画で出版社を紹介させていただいていますが、企画書や試訳のクオリティが高いので検討に値するという前提があり、その上できちんとお仕事をまっとうされるだろうという判断があってのことです。もちろん、紹介できるのは私に伝手がある場合に限りますし、紹介したからといって企画が通るわけでもありません(最近は「出版社を紹介してほしい」「出版翻訳したい」というご相談が多いので、個人セッションで対応しています。ご希望の方はそちらからご連絡ください)。
学校に通っているわけでもないし、出版しているような翻訳家もまわりにいない場合でも、単発講座などでチャンスはあります。第61回「小説翻訳の近道③」の内容をぜひ参考にしてください。
私も人に紹介をお願いすることがあります。その時に心がけていることをお伝えしますね。
まずは、自分が何者なのかを伝えること。相手と面識がない場合、不信感を持たれてしまうかもしれないので、「怪しい者ではないですよ」ということをまず伝えます。
企画書と試訳はしっかり準備をします。そして紹介をしてほしい旨をできるだけフォーマルな形でお願いするようにしています。たとえばメールアドレスがわかる場合でも住所がわかれば、メールではなく郵送で手書きの手紙を添えます。このあたりは人によっても、世代によっても感覚が違うでしょう。SNSではなくメールで連絡があったことで十分フォーマルだと捉える方もいると思います。ただ、手書きで手紙を書く人が減った分、そこまでする人は少ないので、目に留まりやすいというメリットがあります。日ごろ多くの依頼を受けている方ほど、依頼の仕方によって、応じるかどうかの判断が分かれます。十分に気を配るようにしましょう。
さらに、なぜその方に頼んだのかを伝えます。「自分が持ち込みたい出版社からその方が本を出しているから」という場合は、その本についての感想も伝えるといいでしょう。「どこに持ち込んだらいいのかわからないけれど、その方ならどこか知っていそうだから」という場合でも、その方の活動内容を調べて、それについての感想や自分との接点を伝えることが大切です。
他に知っている翻訳家や出版関係者がいなくて、たまたま知り合う機会があった相手に頼む場合、「他に知らないから」ということを伝えるのも正直でいいのですが、その場合でも「他に頼れる方がいないのでお願いします」というように、「他ならぬあなたにぜひお願いしたい」というニュアンスを出したいものです。「誰でもいいけどあなたくらいしか知らないんで頼んでます」という態度では、相手も応じる気にはならないでしょう。
「厚かましくていやだな」と思われるか、「厚かましいけど、おもしろいな」と思われるか。そこで紹介してくれるかどうかも変わってきますので、工夫を凝らしてみてくださいね。
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