第196回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㊱
次の持ち込み先としてIさんが見つけてきたのは、G社でした。私もはじめて知る出版社でしたが、Iさんからいただいた情報を見ると、いろいろと興味深い本を出版されています。学術書がメインのようですが、美術系の本も手がけているそうです。
社長さんの自伝も同社から刊行されていて、キャラの立ったおもしろい方のようです。小規模出版社で社長さんのカラーが前面に出ている場合、その方の興味関心と重なるかどうかで決まる場合が多いでしょう。規模が小さくても編集会議で全員賛成でないと企画が通らないところもありますが、G社は社長さんの意見が強いように見受けられました。こういう場合、その出版社が手がけたことのない分野でも、社長さんの判断で企画が通ることがあります。
それにしても、G社を見つけてくるIさんのリサーチ能力に感心します。リサーチだけではなく、アプローチも迅速です。ホームページで(翻訳書ではありませんが)原稿募集と明記されているのを確認すると、G社の関連書籍に目を通し、企画書をアップデートして早速応募したのです。
すぐにお返事があり、残念ながらお断りだったのですが、気になった出版社に応募できて、Iさんはすっきりされたようです。
持ち込みまでのプロセスが格段にスピードアップされただけでなく、お断りの場合の受け止め方もタフになり、すぐ次に向かえるようになりました。しかも、お断りとはいえG社から別のご依頼があったそうで、ご縁もちゃんとつながっているのです。ロールプレイングゲームのように、出版できた際に応援してもらえる態勢が着々と整いつつあります。
Iさんの進化は、それだけではありません。次に選んだH社にアプローチする際には、イベントに足を運びました。会場となる書店でH社のフェアが開催されているので、編集者さんも参加されているかもしれないと考えてのことです。実際に参加されていたので、Iさんはご挨拶をして、その場で企画書もお渡ししたのです!
ご報告をいただいて、びっくりしました。F社の時には名刺交換すら遠慮していたIさんが、自ら企画書を手渡すようになっているのですから……!
実は、Iさんとは先日、出版関係のイベントでご一緒しました。知人の編集者さんや著者さんも参加されていたのでご紹介すると、Iさんはそれぞれの作品に具体的に言及しながら巧みにお話をされていました。せっかく知り合っても名刺交換だけだとすぐに忘れてしまうかもしれませんが、自分の作品について話をしてくれたとなると、うれしい記憶とともに印象に残りますよね。
Iさんに感心するとともに、「あれ? Iさんって、こんな方だったっけ?」とも……。もともとIさんはとても遠慮深くて、アプローチできる機会があっても、「いえ、私はいいです……」と身を引いてしまうタイプの方だったはずなのですが、持ち込みのプロセスを通して、すっかりたくましく進化されました。
そんなIさんをはじめ、デビューサポート企画の参加者の方々のがんばりを見ながら、私にも変化がありました。出版関係のイベントなどに、以前よりも積極的に出かけるようになってきたのです。「どこかに出かけるより、引きこもって読んだり書いたりしていたい」という人間なのですが、デビューサポート企画につながる出逢いがありそうな場に足を運ぶようになっています。
というのも、「もっと私に出版業界でえげつないほどの権力があれば企画を通してあげられるのに!!」という気持ちが強くなってきたからです。実際には、権力があったところで通るものでもないですし(お抱えの出版社とかなら別ですが)、そんな形で通ったところで作品として評価されるものでもないでしょう。「いや、そもそも、どんな権力?」という感じですが(笑)
それでも、多少とも紹介先があったり心当たりがあったりすれば、この企画に役立つこともあるでしょう。そう思って、出版業界の西太后を目指しつつ(?)引きこもりを脱しています。
参加者の方々に何かの形で還元できることを願いながら……Iさんの企画は、また進捗があったところでお伝えしますね!
※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。
※『心と体がラクになる読書セラピー』が発売中です。メンタルヘルス・ウェルビーイングを学べるメディアmentallyのインタビュー記事とご一緒にご覧いただけたらうれしいです。中国語繁体字版も発売されています。
※最新刊は『古典の効能』です。