第194回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㉞
今回は、第185回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㉗で登場した、アーティストの評伝を選んだIさんの進捗についてお伝えします。
Iさんが次の持ち込み先に選んだのはF社でした。質のよい歴史ノンフィクション作品を手がけていること、美術分野でも興味深い書籍を刊行していること、そしてブックフェアのブースを訪れた際に出版社としての端正なたたずまいが印象に残ったことが、F社を選んだ理由です。
そう、Iさんはブックフェアにも足を運んで、持ち込み先をリサーチしていたのです。その場に編集者さんがいるのでアプローチできるというだけでなく、刊行物が醸し出す雰囲気や社風など、実際にその場に行って初めて感じ取れるものも多いはずです。ブックフェアの他にも、出版社のフェアや社員の話が聞けるイベントは増えていますので、機会があれば参加してみることをおすすめします。
持ち込みにあたってIさんは企画書を更新したのですが、類書情報だけでなく、版型や定価も変更されていました。想定していたA5版からF社の既刊書に多い四六判に変えて、価格帯もF社の主流に合わせて調整したのです。このような細かい目配りが行き届いているところ、さすがIさんです。
アプローチする準備が整ったところで、頼った伝手は編集者さんではなく、デザイナーさんでした。私が以前にお仕事でご一緒したデザイナーさんが、F社のお仕事をよく手がけているのです。
ご一緒したのは一度だけでかなり前でしたが、読んだ本の装幀担当を確認したらそのデザイナーさんだったことが何度かあり、その都度連絡を取っていました。とはいえここしばらくご無沙汰していたので、編集者さんを紹介してくださいとお願いするのには、ためらいもありました。
自分のことだと遠慮してしまったかもしれませんが、今回は自分ではなくIさんのことなので、「厚かましいかも……」という気持ちを振り切ってお願いすることができました。『発達障害サバイバルガイド』という本を読んだ際に「他人ごとであればシビアで冷徹な分析と整理ができる。(中略)他人の脳は、人類が持ち得る最も優れたツール」とありましたが、これに倣えば、「他人ごとであれば情熱的で厚かましい提案とゴリ押しができる。(中略)他人の厚かましさは、人類が持ち得る最も優れたツール」なのかもしれません。
そうしてお願いしたところ、快くF社の編集者さんをご紹介いただくことができました。Iさんの企画書をお送りしてもいいかお尋ねすると、ご検討くださるとのこと。そこでIさんがなぜF社を希望しているのかという理由とともに、私のほうから早速企画書をお送りしました。
Iさんにお伝えすると、なんと、この編集者さんはIさんがブックフェアでお会いした方だったのです。その場でIさんが読んだF社の刊行作品についてお話をしたそうで、その担当編集者さんでした。この作品というのが、私が連絡を取ったデザイナーさんの手がけたものだったのです。
すでに全員がつながっていたんだなあという感じがしましたし、Iさんの企画も、このデザイナーさんに手がけていただいてF社から出せたら素敵だなあ……などと夢が膨らみます。
すると……次回に続きます!
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