TRANSLATION

第191回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㉝

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

編集者さんからのご指摘の中で、ビジネス的なデータよりも私が気になったのは、訳文に関する点でした。

試訳を読んだ編集者さんのご判断は、プロの翻訳家に任せるか、リライトが必要になるとのこと。Yさんがご自分の翻訳を活かしたいのかどうかについて、ご確認があったのです。

Yさんが医師であって翻訳家ではないためですが、翻訳家を目指して勉強中でまだ実績がない方も、同じような経験をするかもしれません。この場合の対応は、それぞれのスタンスによります。

とにかく早く翻訳家としての実績をつくりたいということであれば、訳者として名前が本に掲載されることを条件に、編集者さんからのご提案を受け容れるのも一案でしょう。その場合でも、できればリライトのほうにして、どう手を入れられたのかを確認して勉強することをおすすめします。

また、もしYさんが「医師として名前を売りたい」ということであれば、訳者ではなく監修者として名前を掲載してもらい、翻訳は任せてしまうほうが本も早く出版できますし、目的も果たせるでしょう。

だけどYさんの場合はいずれでもなく、翻訳をしながら著者と対話をし、ご自身が学んでいくことに意義があります。翻訳をしていくプロセスそのものが大切なのです。そこで、何とか翻訳を手がけられるように、編集者さんを説得していかなくてはいけません。そのために、以下のことをお伝えするようにアドバイスしました。

・自分の学びもかねて自分で手がけたいこと。
・時間やクオリティの面で不安のないように努めること。
・時間がかかることを想定してすでにかなりの部分を訳したこと。
・読者層が見えてきた段階(医療者なのか、広く一般読者なのかなど)で、編集者さんの指示のもとに手直しができること。
・必要であればリライトも受け容れること。
・必要であればリライトの人材も探すことが可能であること(これについては、私が知人の編集者さんを介して見つけられるとの考えから、このようにご提案しています)。

要するに、自分でやりたいという意思を示すとともに、編集者さんの不安を払拭するのです。「心配なのはこういうことですよね? わかっているから大丈夫ですよ。こういうふうに対応できますよ」とお伝えするのですね。

訳文に大幅に手を入れなければならないとなると、編集者さんの負担は当然かなり大きくなります。お仕事が増えるだけでなく、その分時間もかかるので、スケジュール面でもご心配をおかけすることになります。その点を理解したうえで、できる限りのことをして編集者さんをサポートする姿勢を示しましょう。

Yさんの進捗については、また動きがあったところでお伝えしていきますね。

※この連載を書籍化した『翻訳家になるための7つのステップ 知っておきたい「翻訳以外」のこと』が発売中です。電子書籍でもお求めいただけますので、あわせてご活用くださいね。

『心と体がラクになる読書セラピー』が発売中です。『ゆうゆう』10月号の「繰り返し読みたい本」の特集や、メンタルヘルス・ウェルビーイングを学べるメディアmentallyのインタビュー記事とご一緒にご覧いただけたらうれしいです。中国語繁体字版も発売されています。

※最新刊は『古典の効能』です。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

END