第190回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㉜
編集者さんから、Yさんにお返事がありました。良書の復刊は個人的にも意義があると思うと賛同してくださったものの、やはりビジネスとして考える必要があるとのこと。
Yさんが示した市場の変化に納得しつつも、「現在、この本が求められていることを示せる具体的なデータ」がほしいというのです。具体例として、「古書での販売価格」や「レビューサイトでのレビュー数」「読書会の参加人数」などを挙げてくださっていました。古書の価格が数万円するようなら、そんな高価格でも売れるくらい、ニーズがあると見込まれていることになります。レビューが数多くついていて、そこに近年のものも含まれていれば、長く愛読されていると考えられます。多くの方が読書会に参加していれば、それだけ熱心な読者がいることになります。いずれも、復刊されれば購入してもらえる可能性があることを示してくれるのです。
「古書での販売価格」と「レビューサイトでのレビュー数」について、私のほうでもいくつかのサイトを見てみましたが、復刊を訴えるには弱いと感じました。ただ、レビューが比較的最近書かれているのが目に留まりました。ひとつのプラス材料です。
「読書会の参加人数」に関しては、旧版を入手してYさんがまわりの方々を誘って読書会を開催し、そこでの意見をデータとして吸い上げることも考えられます。現場の医療関係者の意見はなかなか入ってこないので、訴求力はあるかと思います。時間のかかるやり方ですが、今後考えられる手段のひとつという位置づけです。
ただ、各種のデータを踏まえると、旧版の数字を根拠に復刊するのは難しいように感じました。「旧版が支持されていたから復刊する」というよりも、「この本が今求められているから復刊する」、つまり「今なら新しく多くの読者を獲得できる」ということを訴えるほうが説得力があると思いました。ピンポイントで「これ」というニーズがわかっているからそれを与えるのではなく、なんとなくぼんやりとニーズが存在しているところに「求めているのはこれでしょう!?」と与えるイメージです。
そこで、「背景としての市場の変化」をもっと具体的に示すことをYさんにアドバイスしました。『○○』という本が広く読まれて原書のテーマが注目されるようになったこと。数年前に別の『○○』という本がヒットしたころからその大きな流れがあり、最近でも『○○』や『○○』がよく売れていること。また、このテーマを扱う○○さんの活動がテレビで特集されるなど、この機運が盛り上がっていること。さらに、もしこの分野に関する病床数が増えているなど、医療関係者として示せるデータがあれば、あわせて資料としてまとめることをおすすめしました。そういう資料があると、編集者さんも企画を通しやすくなるからです。
対応してくださった編集者さんは、具体的に必要なデータを教えてくれたり、「もし他社に持っていく場合でもそういうデータはあったほうがいい」とアドバイスをしてくれたりと、きちんとコミュニケーションがとれる、親切な方という印象を受けました。
そういう方なら、「企画を通せるようにできるサポートはどんどんしますので、ぜひ一緒にお願いします」という、同じ目的を持つ仲間になっていただけるような姿勢で臨んでいくのがいいのではと思います。「一緒にがんばってこの企画を通そう」と、他人事ではなく自分事として本気になることで、出てくるアイデアや意見も変わってくるからです。
編集者さんからのご指摘の中で、ビジネス的なデータよりも私が気になったのは、別の点でした。それは……次回に続きます!
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