第188回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㉚
今回は、「第165回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート⑨ 」でご紹介した、ブラジル在住のTさんについてのレポートです。
Tさんは出版実績のある翻訳家の方にすでに一度企画書を見ていただいていたので、ご報告もかねて再度その方に見ていただくことをおすすめしていました。その際に熱意を示すためにも試訳を最低1章分は用意したうえで、お付き合いのある出版社をご紹介いただいては、とアドバイスしていたのです。
その後、Tさんは企画書をブラッシュアップし、第1章の試訳も用意し、翻訳家の方にご連絡をしてみたそうです。その方からさらにアドバイスをいただいて何度か手直しをした結果、その方が知り合いの編集者さんがいるA社に持ち込んでくださったのです。
A社はTさんの企画にぴったりだと思いますし、ここから出版できたら理想的なのではないでしょうか。まずはこの段階までこぎつけたTさんの努力に感心します。
何かをやりたいと思っても、それを行動に移す人は少ないものです。そして実際にそれを形にしていく人は、本当に一握りなんですよね……。おもしろそうと思って始めてみても、やってみて面倒だったり大変だったりすると、そこで投げ出してしまう人が大半なのではないでしょうか。
Tさんが今回お世話になった翻訳家の方も、きっと似たようなご相談を受けるケースはあったでしょう。だけど、アドバイスをきちんと反映してまたやってくるケースは少なかったのではないでしょうか。だからこそ、要求に応えたTさんのがんばりは光ったのでしょうし、ご自身の伝手を使って持ち込んでくださったのだと思います。
今はお返事を待っているところだというTさんですが、こんなご質問が……。「もし半年くらい待ってもご返事がない場合は、次の出版社に持っていっても問題ないと思われますでしょうか?(私が直接持ち込んでいるわけではないので、なかなかこちらからは聞きにくい、ということもございまして……)」
「そ、それはNGです!」と思い、あわててTさんにお返事をしました。その中で、半年くらい待ってもお返事がない場合は、リマインドすることをおすすめしました。編集者さんのご連絡先を教えていただいているなら、直接その編集者さんに。いただいていなければ、持ち込んでくださった翻訳家の方を通してリマインドすることです。
黙って他社に持ち込んでしまうと、その後すぐA社で企画が通った場合、A社にも、他社にも、とても失礼なことになってしまいます。これは前回のHさんのレポートでも詳しくお伝えしていますので、ぜひご参照いただきたいと思います。
それだけではなく、持ち込んでくださった翻訳家の方の顔をつぶすことにもなってしまいます。その方が編集者さんからの信頼を失うなど、お仕事にも悪影響を及ぼしかねません。間に人が入っている場合は特に、慎重に確認するようにしましょう。
同時に他社に持ち込まないというのは暗黙のルールなのですが、「暗黙の」ルールなだけに、やはり認識できていない方が多いようです。先日も、ある編集者さんとお話していた際に、「そういうことをしちゃう人がいるんだよね」と、「困ったもんだ」というニュアンスでの発言がありました。ルール破りは、やはり印象が悪いのです。
ルール破りをしてしまうのは、待ち遠しい気持ちがあるからだけでなく、認識の違いが理由として大きいように思います。きっと、就活で言うなら、エントリーシートを送るような感覚なのではないでしょうか。だから、可能性のありそうなところに同時にたくさん……という発想になるのでしょう。だけど持ち込みは、いわば最終面接なのです。そう捉えると、心構えも変わってくるのではないでしょうか。暗黙のルール、しっかり認識しておいてくださいね。
Tさんの進捗は、また追ってレポートしていきます。どうぞお楽しみに!
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