第186回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㉘
今回は、ぜひお福分けしたいエピソードがあったので、番外編をお届けします。
「第170回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート⑭」でご紹介したJさんが教えてくれたエピソードです。この企画で取り上げているのは古典名作絵本ですが、それ以外にも、素敵な絵本の原書を見つけては、積極的に持ち込みをされています。
私も本を出したA社が昨年末に出展したイベントがあった際に、Jさんは足を運びました。実は、この時も、JさんはA社に直接持ち込みをしていたのです。ファンとして刊行作品を熟知しているJさんは、A社では翻訳絵本を出版していないことは把握していました。でも、原書の美しい佇まいがA社の出版する本の装幀を髣髴とさせるものだったので、ダメもとで提案してみたそうです。
4月末頃に進捗状況をお尋ねしたところ、「社内で検討中の段階」「海外本のため版権料などの確認に時間がかかっている」「絵本の発行元は海外翻訳の場合も自社で印刷までを行い、完成した本を日本に郵送するという形をとることが多く、費用がかかることが予想され難しいかもしれない」とのご回答をいただいたそうです。
てっきり忘れられてそのままになっているのだろうと思っていたJさんは、こうして進めてくださっていたことに驚いたといいます。
その後、担当者の方がエージェントに直接会って話してくださったものの、「やはり費用の面と海外作家の絵本を国内で販売していく力が弊社には足りていないとの判断に至った」とのことで不採用のご連絡をいただいたそうです。
不採用という結果は残念でしたが、半年のあいだ、とても丁寧に対応してくださり、そこまで考えてくださったことのほうがとてもうれしかった、とJさんは教えてくれました。
また、原書を返送してくれない出版社も多いなか、非常に温かい言葉を添えて返送してくれたことにも感激し、やはり応援していきたい出版社だと改めて思ったそうです。誠実なご対応に勇気をもらったと報告してくれました。
持ち込みがうまくいかないことが続くと、自尊心が削られてしまうかと思います。それだけではなく、人のことも信じられなくなってしまいますよね。お返事がなかったり、なかなか連絡がつかなかったりすると、「どうせ忘れられているんだ」「まだ検討も始めていないのかも。いや、検討する気すらないのかも」と思うようになってしまうのです。これは人として、とても悲しいことだと思います。
実際に相手が忙しくて忘れてしまっているケースも、たしかにあるでしょう。だけどちゃんと検討してくれていることだってもちろんありますし、場合によっては、今回お伝えしたケースのように、こちらが思う以上に、実現に向けて一生懸命動いてくれていることだってあるのです。
「どうせ……」という気持ちになってしまった時は、ぜひ今回のエピソードを思い出してほしくて、番外編としてお届けしました。ご報告くださったJさん、素敵なご対応をしてくださったA社のみなさま、ありがとうございました!
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