第184回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㉖
次の持ち込み先にE社を選んだIさん。E社は絵本を扱っていないため、評伝のほうの企画のみをアップデートしました。持ち込むにあたって、なぜE社に本書を託したいのか、Iさんはあらためて考えてみたそうです。
既存の刊行ラインナップとしての接点はぎりぎりセーフという印象を受けたものの、編集者さんもE社もおもしろそうなので、一緒にお仕事ができるとうれしいというのが、まずは正直な気持ちでした。
「こういう動機はダメでしょうか」とIさんからのメールにありましたが、「おもしろそう」という感覚的なものは、大事にしたほうがいいと思います。頭で考えると合っているはずなのに、心が動かないことって、ありますよね? 論理的にはこうするのが正しいはずなんだけど、どうも気が乗らない……そういう場合は何かとトラブルが起きてくるものです。逆に、論理的に考えたら絶対に却下されるはずのことでも、やってみたいと感じたら、動いてみることで、おもしろい展開があるんですよね。
また、Iさんは、E社の刊行ラインナップが自分のツボとけっこう合致することに気づきました。E社はアート系の出版社ではなく、自己啓発書やビジネス書が主力です。Iさんも、今回の企画はアート系とはいえ、基本的に自己啓発書やビジネス書が大好きで、翻訳家としても、その分野をメインにされています。そんなIさんにとって、新しい視点を与えてくれた本という意味で、E社にもアプローチできるかもしれないと考えたのです。
こんなふうに、相手との接点を探って、どの部分をうまく重ね合わせられそうか考えていくことも大切です。これは人間同士の場合にも通じることですが、接点を見つけると親しみを覚えることって、多いのではないでしょうか。たとえば、自分とは全然違うタイプの人に思えても、出身地が同じだったり、出身校が同じだったり、同じアーティストが好きだったりすると、相手がぐんと身近に感じられてきます。それと同じで、出版社の場合も、自分の企画や経歴の中に接点を探ることで、アプローチの方向性が見えてきます。
E社は自己啓発書やビジネス書が主力ではあるものの、質のよいノンフィクションも刊行されています。Iさんはこの点にも尊敬を覚えたといいますし、私も、このラインナップがあるので、Iさんの企画も可能性があるのではと考えました。
Iさんからの思いを伝えたうえで、企画を持ち込んでもいいか、E社の編集者さんに私からお尋ねしました。すると、「お声をかけていただいて光栄です。Iさんの企画、ぜひご紹介ください」というお返事がありました。
この編集者さんはベテランの方なのですが、「見てあげるよ」というスタンスではないんですよね。この謙虚さを見習いたいと感激しましたし、こういうふうに企画を受け止めてくれる編集者さんの存在を知っていただきたいなと思いました。企画を持ち込んでもろくにお返事もなかったり、お断りが続いたりして、自尊心を削られてしまった方も少なくないでしょう。でも、誠意を持って対応してくれる方は、ちゃんといらっしゃるんですよね。
お返事をいただいて、早速企画書一式をお送りしたところ……次回に続きます!
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