TRANSLATION

第183回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート㉕

寺田 真理子

あなたを出版翻訳家にする7つの魔法

作戦会議での情報を参考にして考えた結果、Iさんが持ち込んだのはD社でした。私がタイトルを挙げた作品をはじめ、刊行作品数冊に目を通してみて、企画にぴったりの出版社に思えたからです。

D社は絵本も扱っているため、評論と絵本と2冊とも持ち込むことができるメリットがあります。ただ、出版点数を絞っているので、持ち込み企画のハードルが高そうなのがデメリットです。

公式サイトからご連絡をしてみたところ、お返事はすぐにいただけましたが、残念ながらお断りでした。特別な事情がない限り、D社は持ち込み企画を受け付けていないとのこと。出版翻訳は権利関係が非常にセンシティブなため、できるだけクリアにしておきたいとの考えからでした。その旨が、詳しいご説明とともに、とてもていねいな文面で綴られていました。

実は、D社には、以前に私も別件でご連絡をしたことがあります。企画の持ち込みではなく、違う種類のご相談でした。その際もお断りのお返事だったのですが、きちんとその理由を説明してくださり、「なるほど、こういう考え方でお仕事をされている出版社なのか」と、信頼につながりました。文面にも穏やかで誠実なお人柄が感じられ、あまりにも素敵な断り方に、かえってD社に好感を持つこととなったのです。

Iさんも、私のその気持ちがわかるような気がしたそうです。実際、「断られても、好きになる」ような出来事って、あるんですよね。関連して、今回のデビューサポート企画で他の方から伺った心温まるエピソードもあったので、また後日番外編としてお届けできればと思います。

素敵な出版社に出逢えたのはうれしいことですが、お断りはお断り。ということで、次を考えなくてはいけません。

Iさんの希望は、E社でした。企画と出版社の路線は違うものの、以前に私が編集者さんからお話を伺ったことがあり、大局観を持って物事を捉える方という印象を受けていました。手がけたい作品にもそのスタンスが反映されていて、Iさんの企画に合いそうです。また、翻訳家からの持ち込みも歓迎してくれるとのことでしたので、私が候補に挙げたのです。

E社に持ち込むにあたって、IさんはE社の刊行作品数冊に目を通したうえで、企画書をアップデートしたいとのこと。このIさんの姿勢は、ぜひ見習っていただきたいと思うのです。ただ漠然と同じ企画書を各社に送ってきたわけではなく、A社にはA社に合うように、B社にはB社に合うように……と、それぞれカスタマイズしてきたんですよね。

企画を通すことを目指しているのはもちろんですが、このプロセスをどう扱うかで、力のつき方がものすごく違ってきます。各社にコピペして送りつけるだけでは、残念ながらほとんど何も身につかないでしょう。だけど、その都度各社の刊行作品を読み込んで企画書に反映すれば、実に多くのことが学べます。

「この出版社はこういう分野に強いんだな」「こんな作品も手がけてるんだ」「あの出版社とも傾向が近いかもしれないな」「紙質や装幀にもこだわって、ていねいな仕事をしているな」「こんなロングセラーを出しているんだ」と、「出版社」というぼんやりしたイメージが「実際にどんな作品を刊行しているどんな会社なのか」というはっきりしたものに変わってきます。

そうすると、「この出版社は何をどういう視点で見て評価するのか」と逆算した視点を持てるので、「そこで評価されるために、自分の企画にどう手を入れればいいのか」を考えられるようになります。

業界の情報や客観的な視点、分析力……もともと高い能力をお持ちのIさんですが、ここまでのプロセスで、一段とパワーアップしたように感じます。そんなIさんがアップデートした企画書は……次回に続きます!

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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