第167回 出版翻訳家デビューサポート企画レポート⑪
A社にリマインドのために連絡を取ることにしたAさん。メールを送ってみたものの、2週間近くお返事がありません。そこで、電話をかけることにしました。
電話はなかなかかけづらい、という方も多いかもしれません。だけどもう一歩踏み込むことで反応が得られる場合もあるので、ぜひそこまで踏み込んでほしいのです。とはいえ相手がお取り込み中なのでは、と気を遣いますし、そもそも電話が苦手な方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、私も電話がすごく苦手なのです……。そこで、電話をかけないといけないときは「これは大事な人に頼まれた用事なんだ」と思うようにしています。そう思うと、「しっかり務めなくては」とがんばれるのです。
電話のときだけ違うキャラを演じるのもいいかもしれません。必要以上に気を遣うタイプの方は、「あのぉ~、この間企画書送ったんですけど~、届いてますかぁ~」という具合に、とっぽい人を演じてみるのです。空気が読めない人のふりをする練習も、役に立ってくれるものですよ。他にも、関西弁がしゃべれる方ならバリバリの関西人を演じてみるなど、自分の中に話を進めやすいキャラがあるはずですので、それを探ってみてください。
さて、Aさんが電話をかけると、追ってA社からメールへのお返事がありました。それによれば、現在A社では「こういうテーマのものを出す」という方針があるのですが、残念ながらAさんの企画はそれに当てはまらず、A社としてはご関心がないとのこと。
でも、これはあくまでもA社の都合に過ぎません。Aさんの企画を求めている出版社も当然あるはずですから、そこを探せばいいのです。
そこで、今度はB社にアプローチすることにします。B社の担当編集者さん宛てに企画書を送ってみる、もしくは翻訳を手がけた方から担当編集者さんにつないでいただくことを私は提案していましたが、Aさんは、B社の編集者さんに知人がいたことを思い出しました。2年ほど前にビジネス翻訳のご依頼をいただいたことがあったのです。こういう伝手をたどる方法も「あり」かもしれないと思ったAさん。児童書担当の方をご紹介いただきたい旨、知人にメールをしました。
すると、その知人が、児童書担当の方に企画を検討してくれるよう働きかけてくださったのです。詳しく知りたいとのことで、企画書と試訳を送り、ご検討いただけることになりました。
B社へのアプローチについて、Aさんは、「こういうやり方をしていいんだ!」と目からうろこが落ちたそうです。「ビジネス翻訳の依頼をくださった相手に別件で連絡をしちゃいけない」とそれまでは思っていたのが、私の話を聞くうち、「あり」だと思えるように変わったとのこと。その結果、大きく動き出しました。
Aさんは以前のご自身の考えを、「他の方からすると『謎ルール』かもしれませんね」とおっしゃっていましたが、はたから見ると謎でも、本人にとっては縛りの強いルールだったりするものです。読者の方々も、きっとそんな「謎ルール」をお持ちなのではないでしょうか。「自分にとっては絶対だったけど、もしかしたらこれも『謎ルール』かも?」と考えてみるきっかけにしていただけたらと思います。もし要らないルールだと気づいたら捨ててみると、可能性が広がるはずです。
B社での検討の結果を楽しみに待ちながら……次回はAさんのもうひとつの企画についてお伝えしますね。
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